2019/12/18

逆元の存在の証明

エミール・アルティン『ガロア理論入門』第2章第3節続き。

\( K \subset E \) で、体 \( K \) 上の代数的な \( E \) の要素 \( \alpha \) の最小多項式 \( f(x) \) の性質を確認し、要素 \( \theta \) のつくる \( E \) の部分集合 \( E_0 \) が体であり、\( K ( \alpha ) \) であることを示そうとしています。そのために、 まずは \( E_0 \) を模写した \( E_1 \) が体であることを示そうとしています。\( E_1 \) は体の公理のほとんどを満たしていて、最後の確認です。
 ここで、 \( E_1 \) が体であることを示すために \( E_1 \) の2つの要素 \( g( \xi ) \neq 0 \) と \( h( \xi ) \) が与えられたとき
$$
g( \xi ) X( \xi ) = h( \xi )
$$
となるような \( E_1 \) の要素
$$
X( \xi ) = x_0 + x_1 \xi + \cdots + x_{n-1} \xi ^{n-1}
$$
が存在することを示さねばならない。そのためには \( X( \xi ) \) の係数 \( x_i \) を未知数と考え、左辺にある積を計算し、次に等式 \( f( \xi ) = 0 \) を用いて \( \xi \) について \( n-1 \) よりも高い次数の項をなくすようにする。その結果は次の形となる。
$$
L_0 + L_1 \xi + \cdots + L_{n-1} \xi ^{n-1}
$$
ここで \( L_i \) は \( K \) の要素を係数とする \( x_1, x_2, \cdots, x_{n-1} \) の線形和である。
左辺にある積を計算するというのは、以下を計算するということです。
$$
\begin{eqnarray}
& & g( \xi ) X( \xi ) \\
&=& ( c_0 + c_1 \xi + \cdots + c_{n-1} \xi ^{n-1} ) ( x_0 + x_1 \xi + \cdots + x_{n-1} \xi ^{n-1} )
\end{eqnarray}
$$
さすがにすべて計算することはしませんが、計算して整理すると、定数項は \( c_0 x_0 \) 、\( \xi \) の項の係数は \( c_0 x_1 + c_1 x_0 \)、…となります。そして \( f( \xi ) = 0 \) を使って \( \xi \) について \( n-1 \) よりも高い次数の項をなくすようにすると、係数が \( x_1, x_2, \cdots, x_{n-1} \) の線形和となるような \( \xi \) の式となります。つまり、
$$
\begin{eqnarray}
& & g( \xi ) X( \xi ) \\
&=& ( c_0 + c_1 \xi + \cdots + c_{n-1} \xi ^{n-1} ) ( x_0 + x_1 \xi + \cdots + x_{n-1} \xi ^{n-1} ) \\
&=& L_0 + L_1 \xi + \cdots + L_{n-1} \xi ^{n-1}
\end{eqnarray}
$$
としたわけです。
この結果が \( h ( \xi ) \) に一致しなければならないので、\( h ( \xi ) \) の係数を \( b_i \) とすると、次のような \( n \) 個の未知数についての \( n \) 個の方程式を得る。
$$
L_0 = b_0, \quad L_1 = b_1, \quad \cdots, \quad L_{n-1} = b_{n-1}
$$
\( g( \xi ) X( \xi ) = h( \xi ) \) より、
$$
L_0 + L_1 \xi + \cdots + L_{n-1} \xi ^{n-1} = b_0 + b_1 \xi + \cdots + b_{n-1} \xi ^{n-1}
$$
として、係数を比較して得た方程式が、
$$
L_0 = b_0, \quad L_1 = b_1, \quad \cdots, \quad L_{n-1} = b_{n-1}
$$
です。
この連立方程式が解をもつためには、対応する同次連立方程式
$$
L_0 = 0, \quad L_1 = 0, \quad \cdots, \quad L_{n-1} = 0
$$
が自明解しかもたないことを示せばよい。ところがあとの連立方程式は、\( g( \xi ) X( \xi ) = 0 \) をみたす要素 \( X( \xi ) \) を問題にしたときに得られる方程式である。これは古い意味の乗法にもどって \( g( \xi ) X( \xi ) \) を考えたとき、 \( g( \xi ) X( \xi ) \) の剰余が \( 0 \) 、すなわち \( g( \xi ) X( \xi ) \) が \( f( \xi) \) で割りきれる場合である。ところが42ページの補題により、これは \( X( \xi) = 0 \) の場合のみ起こりうることである。すなわち上の同次方程式は自明解しかもち得ない。
第1章で定理5として、同次連立方程式が解をもつ必要十分条件が挙げられています。
定理5
\( m = n \) の場合の連立方程式 \( (1) \) が、任意に与えた右辺に対して解をもつための必要十分条件は、これに同伴な同次連立方程式が自明解のみをもつことである。そしてこの場合、解はただ一組である。
\( m = n \) の場合の連立方程式 \( (1) \) とは、以下の方程式で \( m = n \) の場合です。
$$
\begin{eqnarray}
a_{11} x_1 &+& a_{12} x_2 &+& \cdots &+& a_{1n} x_n &=& b_1 \\
a_{21} x_1 &+& a_{22} x_2 &+& \cdots &+& a_{2n} x_n &=& b_2 \\
\vdots && && && \vdots && \vdots \\
a_{m1} x_1 &+& a_{m2} x_2 &+& \cdots &+& a_{mn} x_n &=& b_m
\end{eqnarray}
\tag{1}
$$
そして連立方程式 \( (1) \) に同伴な同次連立方程式は次の同次連立方程式 \( (2) \) となります。
$$
\begin{eqnarray}
a_{11} x_1 &+& a_{12} x_2 &+& \cdots &+& a_{1n} x_n &=& 0 \\
a_{21} x_1 &+& a_{22} x_2 &+& \cdots &+& a_{2n} x_n &=& 0 \\
\vdots && && && \vdots && \vdots \\
a_{m1} x_1 &+& a_{m2} x_2 &+& \cdots &+& a_{mn} x_n &=& 0
\end{eqnarray}
\tag{2}
$$
また、42ページの補題は以下です。
補題
\( f(x) \) を \( K \) 内の次数 \( n \) の既約多項式とするとき、0と異なる2つの \( K \) 内の多項式でそれらの次数が \( n \) より小、しかもそれらの積は \( f(x) \) で割りきれるようなものは存在し得ない。
この補題から、\( g( \xi ) X( \xi ) = 0 \) となるのは \( X( \xi) = 0 \) の場合のみ起こりうることであり( \( g( \xi ) \) と \( X( \xi ) \) の次数は \( n-1 \) で、\( f ( \xi ) \) より小。また \( g( \xi ) \neq 0 \) )、同次連立方程式
$$
L_0 = 0, \quad L_1 = 0, \quad \cdots, \quad L_{n-1} = 0
$$
は自明解しかもたない。したがって、定理5より
$$
L_0 = b_0, \quad L_1 = b_1, \quad \cdots, \quad L_{n-1} = b_{n-1}
$$
は解をもつ。 未知数 \( x_i \) が解をもつということは、 \( x_i \) は \( X( \xi ) \) の係数ですので、\( g( \xi ) X( \xi ) = h( \xi ) \) となるような \( E_1 \) の要素 \( X( \xi ) = x_0 + x_1 \xi + \cdots + x_{n-1} \xi ^{n-1} \) が存在する、となります。

こうして、\( E_1 \) が体であることが示されました。

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