2019/12/11

新しい乗法

エミール・アルティン『ガロア理論入門』第2章第3節の続きです。

\( K \subset E \) で、体 \( K \) 上の代数的な \( E \) の要素 \( \alpha \) の最小多項式 \( f(x) \) の性質を確認し、いまは次のような要素 \( \theta \) のつくる \( E \) の部分集合 \( E_0 \) が体であり、\( K ( \alpha ) \) であることを示そうとしています。
$$
\theta = g( \alpha ) = c_0 + c_1 \alpha + \cdots + c_{n-1} \alpha ^{n-1}
$$
アルティンは、\( E_0 \) が体であることを示すために、集合 \( E_0 \) の模写をはじめます。
 \( E_0 \) が体であることを示すために、拡大体 \( E \) と 要素 \( \alpha \) を用いないで集合 \( E_0 \) を模写してみる。いま \( K \) 内の既約多項式
$$
f(x) = x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_0
$$
が与えられたとしよう。
\( \xi \) を1つの記号とする。次数が \( n \) より小さく \( \xi \) の多項式
$$
g( \xi ) = c_0 + c_1 \xi + \cdots + c_{n-1} \xi ^{n-1}
$$
全体の集合を \( E_1 \) とする。この集合は加群をなす。ここで \( E_1 \) の2つの要素 \( g( \xi ) \) と \( h( \xi ) \) に対して通常の積のほかに新しい乗法を定義し、それを \( g( \xi ) \times h( \xi ) \) と表わす。すなわち \( g( \xi ) \times h( \xi ) \) とは通常の積 \( g( \xi ) h( \xi ) \) の \( f(x) \) を法とした剰余 \( r( \xi ) \) のことと定義する。するとまず、\( g_1 ( \xi ) \), \( g_2 ( \xi ) \) , \( \cdots \), \( g_m( \xi ) \) の積 \( g_1 ( \xi ) \times g_2 ( \xi ) \times \cdots \times g_m( \xi ) \) は通常の積 \( g_1 ( \xi ) g_2 ( \xi ) \cdots g_m( \xi ) \) の剰余に等しいことがわかる。この性質は \( m = 2 \) のときは定義から明らかであり、任意の \( m \) に対しては次の性質と数学的帰納法とを用いて示される。その性質とは
“ \( g_1( \xi ) \) と \( g_2( \xi ) \) の剰余をそれぞれ \( r_1( \xi ) \) と \( r_2( \xi ) \) とすると \( g_1( \xi ) g_2( \xi ) \) と \( r_1( \xi ) r_2( \xi ) \) とは同じ剰余をもつ”
ということである。この証明の詳細は読者にまかせよう。
議論の方向性を簡単に例えると、 \( E_0 \) が体であることを示すために、\( E_0 \) の模型をつくったようなものです。その模型の名前が \( E_1 \) で、\( E_1 \) が体であることを示し、\( E_0 \) と \( E_1 \) は同じ型であることを示すことで、\( E_0 \) が体であることを示そうとしています。

体であるかどうかの確認は、体の定義に当てはまるかどうかです。体の定義は別に載せています(「体の定義」参照)のでここでは詳しくは書きませんが、体には加法と乗法が定義されています。 \( E_1 \) は加群(加法が定義された可換群)をなすため、加法についてはOK。乗法についてですが、通常の乗法(簡単にいえば掛け算)では閉じていませんので、新しい乗法を定義します。その新しい乗法を \( g( \xi ) \times h( \xi ) \) と表わし、\( g( \xi ) \times h( \xi ) \)とは通常の積 \( g( \xi ) h( \xi ) \) の \( f(x) \) を法とした剰余 \( r( \xi ) \) のことと定義します。

このような言葉が適切ではないかもしれませんが、多項式での \( \bmod \) ですね。

さて、証明が読者にまかされています。取り組んでみましょう。

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