2019/12/06

拡大次数の積の定理

エミール・アルティン『ガロア理論入門』第2章第1節。

以前、拡大体、部分体、添加体、そして拡大次数について見ました。今回はその続きで、拡大次数の積の定理について見てみます。

『ガロア理論入門』には、拡大次数の積の定理という名では載っておらず、単に定理6として証明とともに記載されています。
定理6. \( K, B, E \) を \( K \subset B \subset E \) のような3つの体とするとき、次の関係がなりたつ。
$$
( E/K ) = ( B/K ) ( E/B )
$$
\( (E/K) \) というのは、\( E \) の \( K \) 上の拡大次数でした。定理6では、\( K \subset B \subset E \) のとき、《 \( E \) の \( K \) 上の拡大次数》は、《 \( B \) の \( K \) 上の拡大次数》と《 \( E \) の \( B \) 上の拡大次数》の積になることをいっています。

「拡大次数の積の定理」という名前は、結城浩『数学ガール/ガロア理論』に載っていたのですが、それによると、この定理は「塔定理」や「連鎖律」とも呼ばれることもあるようです。

さて、この定理の証明ですが、ゆっくり丁寧に読まないと理解できませんでした。これから本に載っていた証明を解説するようなかたちで書いていきますが、冗長なところ、また逆に言葉足らずなところもあるかと思います。その点ご了承ください。
証明 \( \alpha_1 , \alpha_2 , \cdots , \alpha_r \) を \( B \) 上線型独立な \( E \) の要素とし、\( \gamma_1 , \gamma_2 , \cdots , \gamma_s \) を \( K \) 上線形独立な \( B \) の要素とする。すると \( i = 1, 2, \cdots, s \) ; \( j = 1, 2, \cdots, r \) としたときの積 \( \gamma_i \alpha_j \) は \( K \) 上線形独立な \( E \) の要素となる。その理由をみるために \( \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j = 0 \) としてみよう。すると \( \sum_{ j } ( \sum_{ i } a_{ij} \gamma_i ) \alpha_j \) は \( B \) からの係数をもつ \( \alpha_j \) の線形和であり、 \( \alpha_j \) は \( B \) 上線形独立であるから、 \( \sum a_{ij} \gamma_i = 0 \) が任意の \( j \) についてなりたつ。ところが \( \gamma_i \) は \( K \) 上線形独立であるから、すべての \( i, j \) について \( a_{ij} = 0 \) がわかる。
いま証明したいことは、\( ( E/K ) = ( B/K ) ( E/B ) \) 、つまり《 \( E \) の \( K \) 上の拡大次数》は、《 \( B \) の \( K \) 上の拡大次数》と《 \( E \) の \( B \) 上の拡大次数》の積になるということです。拡大次数はベクトル空間とみなしたときの次元であり、次元は線型独立の要素数であるため、《 \( B \) 上線形独立な \( E \) の要素》を \( \alpha_1 , \alpha_2 , \cdots , \alpha_r \) とひとまずおこうということです。同様に \( \gamma_1 , \gamma_2 , \cdots , \gamma_s \) を《 \( K \) 上線形独立な \( B \) の要素》としています。すると \( \alpha_j \) と \( \gamma_i \) の積 \( \gamma_i \alpha_j \) が \( K \) 上線形独立な \( E \) の要素となる、というのが前半部分で、後半はその理由です。

\( \gamma_i \alpha_j \) が \( K \) 上線形独立な \( E \) の要素となることを確認するために、 \( \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j = 0 \) という方程式を考えます。\( \sum \) に慣れていないので、\( \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j \) を明示的に書くと次のようになります(というか、証明の内容を読むとこうなるだろう、と書いています)。
$$
\begin{eqnarray}
\sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j &=& \sum_{ j } \left( \sum_{ i } a_{ij} \gamma_i \right) \alpha_j \\
&=& \sum_{ j = 1 } ^{ r } \left( \sum_{ i = 1 } ^{ s } a_{ij} \gamma_i \right) \alpha_j \\
&=& \left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{i1} \gamma_i \right) \alpha_1 + \left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{i2} \gamma_i \right) \alpha_2
+ \cdots + \left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{ir} \gamma_i \right) \alpha_r \\
\end{eqnarray}
$$
いま \( \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j = 0 \) を考えていますので、
$$
\begin{eqnarray}
\left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{i1} \gamma_i \right) \alpha_1 + \left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{i2} \gamma_i \right) \alpha_2 + \cdots + \left( \sum_{ i=1 } ^{ s } a_{ir} \gamma_i \right) \alpha_r = 0 \\
\end{eqnarray}
$$
です。

\( \alpha_1 , \alpha_2 , \cdots , \alpha_r \) は \( B \) 上線型独立な \( E \) の要素ですので、それぞれの係数 \( \sum a_{ij} \gamma_i \) について、 \( \sum a_{ij} \gamma_i = 0 \) が任意の \( j \) でなりたちます。さらに、
$$
\begin{eqnarray}
\sum_{ i = 1 }^{ s } a_{ij} \gamma_i = a_{1j} \gamma_1 + a_{2j} \gamma_2 + \cdots + a_{sj} \gamma_s = 0 \\
\end{eqnarray}
$$
で、\( \gamma_1 , \gamma_2 , \cdots , \gamma_s \) は \( K \) 上線形独立な \( B \) の要素ですので、それぞれの係数 \( a_{ij} \) について、\( a_{ij} = 0 \) となることがわかります。

すると、最初の式 \( \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j = 0 \) は、 \( \sum a_{ij} ( \gamma_i \alpha_j ) = 0 \) のように考えると、\( \gamma_i \alpha_j \) のすべての係数について \( 0 \) ということになり、\( \gamma_i \alpha_j \) は \( K \) 上線形独立な \( E \) の要素となります。

\( \gamma_i \alpha_j \) が \( K \) 上線形独立な \( E \) の要素となることがわかったところで、次にいきましょう。
さて \( K \) 上線形独立な \( \gamma_i \alpha_j \) が \( rs \) 個あるので、任意の \( r \leqq (E/B) \) と 任意の \( s \leqq (B/K) \) に対して次数 \( (E/K) \geqq rs \) であることが示されたことになる。よって
\( ( E/K ) \geqq ( B/K ) ( E/B ) \)
ここで右辺の2数のうちの1つが無限大ならば、これで定理が示されたことになる。
拡大次数が無限大ということは、次元が無限大、つまり線形独立な要素が無限にあるということになります。もし\( ( B/K ) \) か \( ( E/B ) \) が無限大ならば、 \( K \) 上線形独立な \( \gamma_i \alpha_j \) も無限にあるということになり、\( ( E/K ) \gt ( B/K ) ( E/B ) \) はなりたたず、\( ( E/K ) = ( B/K ) ( E/B ) \) となります。

最後、 \( ( E/B ) \) と \( ( B/K ) \) がどちらも有限である場合を確認して証明終了です。
\( ( E/B ) \) と \( ( B/K ) \) がいずれも有限で、たとえば \( r \) と \( s \) であるときは、\( \alpha_j \) と \( \gamma_i \) をそれぞれベクトル空間 \( E \) と \( B \) の生成系にとる。このとき \( K \) 上の線形独立な \( \gamma_i \alpha_j \) が \( E \) の \( K \) 上の1つの生成系であることを示せばよい。まず、\( E \) の任意の要素 \( \alpha \) は \( B \) からの係数を用いて \( \alpha_j \) の線形和に表わされる。よって \( \alpha = \sum \beta_j \alpha_j \) となる。さらに \( B \) の要素 \( \beta_j \) は \( K \) からの係数を用いて \( \gamma_i \) で線形に表わされる。すなわち
\( \beta_j = \sum a_{ij} \gamma_i , \qquad j = 1, 2, \cdots, r \)
となる。よって \( \alpha = \sum a_{ij} \gamma_i \alpha_j \) であり、 \( \gamma_i \alpha_j \) は \( E \) の \( K \) 上の生成系であることがわかる。
(証明終り)
\( ( E/B ) \) と \( ( B/K ) \) がそれぞれ \( r \) と \( s \) とすると、ベクトル空間 \( E \) と \( B \) の次元は \( r , s \) となり、 \( \alpha_j \) と \( \gamma_i \) はベクトル空間 \( E \) と \( B \) の生成系となります。このとき \( K \) 上の線形独立な \( \gamma_i \alpha_j \) が \( E \) の \( K \) 上の1つの生成系であれば、\( K \) 上のベクトル空間 \( E \) の次元は \( rs \) となり、 \( ( E/K ) = ( B/K ) ( E/B ) \) がなりたちます。

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