補題 \( f(x) \) を \( K \) 内の次数 \( n \) の既約多項式とするとき、0と異なる2つの \( K \) 内の多項式でそれらの次数が \( n \) より小、しかもそれらの積は \( f(x) \) で割りきれるようなものは存在し得ない。この補題を背理法を使って証明しています。
証明 この命題を背理法で証明するために、\( g(x), h(x) \) を \( n \) より小さい次数の多項式で、それらの積が \( f(x) \) で割り切れるものとしよう。そのような多項式 \( g(x) \) と \( h(x) \) を \( g(x) \) が次数最低であるように選んだとしよう。 \( f(x) \) は \( g(x)h(x) \) の因数であるから2つの多項式を \( g(x), h(x) \) として、それらの積 \( g(x)h(x) \) が \( f(x) \) で割り切れるものと仮定して進めています。\( g(x), h(x) \) は0ではなく、次数が \( n \) より小さいもので、 \( g(x) \) の次数が最低であるとします。\( g(x)h(x) \) が \( f(x) \) で割りきれるので、
$$
k(x)f(x) = g(x)h(x)
$$
のような多項式 \( k(x) \) が存在する。除法のアルゴリズムによって
$$
f(x) = q(x)g(x) + r(x)
$$
と表わされ、\( r(x) \) の次数は \( g(x) \) の次数より小である。ここで \( f(x) \) は既約であるから \( r(x) \neq 0 \) でなければならない。この等式に \( h(x) \) をかけて変形すれば、次式が得られる。
$$
\begin{eqnarray}
r(x)h(x) &=& f(x)h(x) - q(x)g(x)h(x) \\
&=& f(x)h(x) - q(x)k(x)f(x)
\end{eqnarray}
$$
よって \( r(x)h(x) \) は \( f(x) \) で割りきれなければならない。ところが \( r(x) \) の次数は \( g(x) \) の次数よりも小さいので、これはわれわれの \( g(x) \) のとり方に矛盾する。
(証明終り)
$$
k(x)f(x) = g(x)h(x)
$$
と式を立てることができます。
また、\( f(x) \) を \( g(x) \) で割ったときの商を \( q(x) \) 、余りを \( r(x) \) として、\( f(x) \) は次のように表わされます。
$$
f(x) = q(x)g(x) + r(x)
$$
\( r(x) \) は余りですので、\( r(x) \) の次数は \( g(x) \) の次数より小さく、また、\( f(x) \) は既約多項式ですので、 \( r(x) \neq 0 \) です。\( f(x) = q(x)g(x) + r(x) \) に \( h(x) \) をかけて変形します。
$$
\begin{eqnarray}
f(x)h(x) &=& q(x)g(x)h(x) + r(x)h(x) \\
r(x)h(x) &=& f(x)h(x) - q(x)g(x)h(x) \\
r(x)h(x) &=& f(x)h(x) - q(x)k(x)f(x) \qquad ( k(x)f(x) = g(x)h(x) より) \\
\end{eqnarray}
$$
右辺のどちらの項にも \( f(x) \) がありますので、\( r(x)h(x) \) は \( f(x) \) で割りきれます。
ところで、最初に \( g(x)h(x) \) が \( f(x) \) で割り切れると仮定した際、\( g(x) \) を次数最低のものとして仮定しました。ところが、 \( r(x) \) は \( f(x) \) を \( g(x) \) で割ったときの余りですので、\( r(x) \) の次数は \( g(x) \) の次数より小さいものです。その \( r(x) \) と \( h(x) \) の積が \( f(x) \) で割りきれるということが起こってしまった、矛盾が生じたということになります。
『ガロア理論入門』は節の冒頭に訳者による概要がつけられています。その概要に「次の補題を証明する」と書かれたあと、この補題について以下のように記号で書かれていました。
$$
\mathrm{deg} \ g(x) \lt n , \ \mathrm{deg} \ h(x) \lt n \ \Rightarrow \ f(x) \nmid g(x)h(x)
$$
\( \mathrm{deg} \) ってなんだ? \( \nmid \) ってなんだ(読み方すらわからない)? という状態でしたが、補題の内容を確認することで、\( \mathrm{deg} \) は「次数(degree)」、\( \nmid \) は(読み方は未だわかりませんが)「割りきれない」ということがわかりました。ちなみに「割りきる」は「\( \mid \)」を使うようです。
【参考】雑記帳「LaTeX での「割り切る」記号」
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