V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。このブログではわかりにくいかもしれないが、V の要素は太字のアルファベットで記載されている。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
まず「加群」について。漢字からは「加法に関する群」であろうと予想はできるが、念のためインターネットで調べてみる。「加群」で検索すると、「環上の加群」という用語がたくさんヒットした。環上の「環」は、おそらく整数環などの「環」であろう。「体」上ではなく「環」上での加群ということも考えられているということを知る。「環上の加群」についても、いつか勉強するかもしれない。いまのところは、先に進もう。
予想はほぼ当たっていて、加群とは、加法に関する可換群(アーベル群)のことであった。
ベクトルといえば、アルファベットの上に矢印が書かれたものを思い出す。
「左ベクトル空間」の「左」は、V の任意の要素 a に、K の任意の要素 a を左から掛けているから「左ベクトル空間」である。右から掛ける、つまり、aa が定義され、同様の条件が満たされていた場合には「右ベクトル空間」と呼ばれる。「左ベクトル空間」と「右ベクトル空間」に分けているのは、有理数同士や実数同士ならば左から掛けても右から掛けてもその演算結果は同じ、つまり交換法則が成り立つが、一般的な群や体を考える場合には交換法則が成り立たない場合もあるからである。『ガロア理論入門』では、「このあと、左ベクトル空間と右ベクトル空間を同時に扱うことはないので、左、右をつけないで単にベクトル空間とよぶことにしよう」としている。
さて、ベクトル空間の定義のあと、以下のことが書かれてあった。
V を K 上の左ベクトル空間とし、0 と 0 をそれぞれ K と V の零とするとき、はじめの式とは、0a=0 のことである。0a=0 を導いたやり方を丁寧に書いてみます(イコールの位置などそろえておらず、すみません)。
0a=0、 a0=0がなりたつことが容易に確かめられる。たとえばはじめの式は、次の等式から導くことができる。
aa=(a+0)a=aa+0a
aa上の最初、1行目の aa は、「K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて」と、すでに定義されているもの。2行目では、その a を a+0 としている。a は体K の要素で、体では加法が定義され、零元(単位元)があるので、a=a+0 である。そして3行目は、2行目の式に空間ベクトルの条件のひとつ、(a+b)a=aa+ba を使っている。1行目と3行目をつなげると、aa=aa+0a で、右辺の 0a が、0a=0 でなければならない。
=(a+0)a
=aa+0a
与えられた定義(公理)や(すでに証明された)定理から新たな定理を導くことが証明である。
では、この節の問題を見てみよう。
問題2-1 体K 上のベクトル空間V において
(1) a0=0、(-1)a=-a を証明せよ。
(2) aa=0 ならば a=0 または a=0 であることを証明せよ。
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