2019/12/08

第2章第2節の節末問題(問題2-4解答)

エミール・アルティン『ガロア理論入門』第2章第2節の節末問題。問題2-4。
問題2-4 \( f(x) \in Z[x] \) が、有理数を係数にもつ2つの多項式 \( g(x), h(x) \) の積に分解されるならば、実は \( Z[x] \) に属する2つの多項式の積に分解されることを示せ。またとくに \( f(x) \) の最高次の係数が1ならば、分解する多項式の最高次の係数も1としてよいことを示せ。
この問題のみピックアップすると、\( Z[x] \) って何?となりますが、\( Z[x] \) は、問題2-3に出てきたもので、整数を係数とする \( x \) の多項式の全体の集合です。

何度も言いたくなってしまいますが、当たり前のように感じていることほど、証明するとなると難しいですね……。解答を見ます。
解答
\( g(x), h(x) \) それぞれについて、その係数の分母の最小公倍数をくくり出し、次に係数の分子の最大公約数をくくり出して、
\( g(x) = \frac { a } { b } g_0(x) , \qquad h(x) = \frac { c }{ d } h_0(x) \)
とする。ここに \( a, b, c, d \in Z \) で、\( g_0(x) , h_0(x) \) はともに \( Z[x] \) に属し、係数の最大公約数は1である。すると \( f(x) = g(x) h(x) \) から
\( bd f(x) = ac g_0(x) h_0(x) \)
であり、問題2-3により \( p \mid g_0(x) h_0(x) \) となる素数 \( p \) は存在しないので、右辺の係数の最大公約数はちょうど \( ac \) である。左辺からはそれが \( bd \) の倍数であることを示すので \( bde = ac \ ( e \in Z ) \) すなわち \( f(x) = e g_0(x) h_0(x) \) となり \( e g_0(x) \in Z[x] , \ h_0(x) \in Z[x] \)

次に \( f(x) \) の最高次の係数が1で \( f(x) = ( ax^n + \cdots )( bx^m + \cdots ) \) とすると、整数 \( a, b \) は \( ab = 1 \) をみたす。\( a = b = -1 \) のときは、全体の符号をかえればよいので \( a = b = 1 \) としてよい。
最初のところがよくわかりません。問題2-3で証明したことをつかうために、\( g(x), h(x) \) それぞれについて、その係数の分母の最小公倍数をくくり出し、次に係数の分子の最大公約数をくくり出して、\( g(x) = \frac { a } { b } g_0(x) , \ h(x) = \frac { c }{ d } h_0(x) \) としたということはわかりますが、「分母の最小公倍数をくくり出し、次に係数の分子の最大公約数をくくり出す」というのがどういったことを意味するのか。

何か具体例を作って確認してみます。

適当な有理数係数の多項式でみてみましょう。たとえば、\( \frac{1}{2}x^2 + \frac{4}{3}x + \frac{5}{6} \) を考えます。係数の分母の最小公倍数、ここでは2, 3, 6の最小公倍数は6。係数の分子の最大公約数、ここでは1, 4, 5の最大公約数は1。くくり出してみると、
$$
\frac{1}{2}x^2 + \frac{4}{3}x + \frac{5}{6} = \frac{1}{6} ( 3x^2 + 8x + 5 ) \\
$$
\( 3x^2 + 8x + 5 \) の部分が、解答文での \( g_0(x) \) や \( h_0(x) \) に相当します。\( 3x^2 + 8x + 5 \) は整数係数ですので、\( Z[x] \) の要素です。そして \( 3x^2 + 8x + 5 \) の係数の最大公約数は1です。

方程式を見やすくするために似たような操作をしますね。たとえば \( \frac{1}{2}x^2 + \frac{4}{3}x + \frac{5}{6} = 0 \) という方程式で、
$$
\begin{eqnarray}
\frac{1}{2}x^2 + \frac{4}{3}x + \frac{5}{6} &=& 0 \qquad & \\
3x^2 + 8x + 5 &=& 0 \qquad & 両辺に6を掛けた \\
\end{eqnarray}
$$
というようなことをしたりします(実際には最高次の係数を1にすることが多いですが)。\( \frac{1}{2}x^2 + \frac{4}{3}x + \frac{5}{6} \) は方程式ではなく多項式ですので、勝手に6倍したら違う式となってしまいます。多項式では、6倍したあと \( \frac{1}{6} \) 倍を掛けて元に戻したという感じですかね。この \( \frac{1}{6} \) 倍のところの操作を、一般化して述べたものが「係数の分母の最小公倍数をくくり出し、次に係数の分子の最大公約数をくくり出す」ということのようです。

証明の内容の方に戻ると、 \( f(x) = g(x) h(x) \) ですので、\( g(x), h(x) \) のところに \( g(x) = \frac { a } { b } g_0(x) , h(x) = \frac { c }{ d } h_0(x) \) を代入して、
$$
\begin{eqnarray}
f(x) &=& g(x) h(x) \\
f(x) &=& \left( \frac { a } { b } g_0(x) \right) \left( \frac { c }{ d } h_0(x) \right) \\
f(x) &=& \frac { ac } { bd } g_0(x) h_0(x) \\
bdf(x) &=& ac g_0(x) h_0(x) \\
\end{eqnarray}
$$
です。

いま \( g_0(x) \) の係数の最大公約数は1、\( h_0(x) \) の係数の最大公約数も同じく1ですので、\( g_0(x) h_0(x) \) の係数の最大公約数も1。したがって、右辺 \( ac g_0(x) h_0(x) \) の係数の最大公約数は \( ac \) です。左辺からはそれが \( bd \) の倍数であることを示すので、\( bde = ac \) とおいています( \( e \in Z \) )。\( bd \) の \( e \) 倍が \( ac \) ということです。

ちなみに問題2-3で証明したことは、
\( p \) を素数とし \( g(x), h(x) \in Z[x] \) とするとき \( p \mid g(x)h(x) \) ならば \( p \mid g(x) \) または \( p \mid h(x) \)
です。

\( bde = ac \) を、\( bdf(x) = ac g_0(x) h_0(x) \) に代入して整理すると、\( f(x) = e g_0(x) h_0(x) \) となり、\( f(x) \in Z[x] \) が、有理数を係数にもつ2つの多項式 \( g(x), h(x) \) の積に分解されるならば、\( Z[x] \) に属する2つの多項式の積に分解されることが示されました。

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