2019/11/30
【定理3・4】行列の階数
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第4節の続き。
まずは、定理3について。
続いて、行列と階数についての定義。
行列については、あまり理解していない。
少し先の第6節では行列式を取り扱っているが、「ここで述べる行列式の理論は、ガロアの理論の中では必要ではない。この部分を省略して先へ進んでも構わない」とあるので、いまのところ、行列に関することは定義と定理を確認するにとどめておく。
まずは、定理3について。
定理3 体Kの要素のn個の組全体がつくる行(あるいは列)ベクトル空間Knは、K上の次元nのベクトル空間である。証明は省略。
続いて、行列と階数についての定義。
体Kの要素を次のように長方形状に並べたものを行列という。
(行列の図略)
1つの行列において、この行列を構成する行ベクトル(ai1, ai2, …, ain)の中で線形独立なものの最大個数を左行階数という。ただし、行ベクトルに対する体の要素の積を左側から行なうものとする。これを右側から行なうものとするとき、右行階数を定義できるし、同様に左、右の列階数を定義することができる。
定理4 任意の行列において、右列階数は左行階数に等しく、左列階数は右行階数に等しい。体が可換のときは、4つの数は互いに等しく、これをこの行列の階数と名づける。このあと、定理4の証明が続いているが、ここには書かない。
行列については、あまり理解していない。
少し先の第6節では行列式を取り扱っているが、「ここで述べる行列式の理論は、ガロアの理論の中では必要ではない。この部分を省略して先へ進んでも構わない」とあるので、いまのところ、行列に関することは定義と定理を確認するにとどめておく。
2019/11/23
部分空間、行ベクトル、列ベクトル
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第4節。
部分空間の説明。
部分空間の説明。
ベクトル空間のある部分集合が、そのベクトル空間の部分群になっていて、しかも体の任意の要素とその部分集合の任意の要素との積がふたたびその集合に属すとき、その部分集合を部分空間という。a1, a2, …, as がベクトル空間V の要素のとき、a1a1+a2a2+…+asas の形をした要素全体の集合は明らかに V の部分空間である。また次元の定義から部分空間の次元は全空間の次元をこえることはない。集合から部分集合がつくれるように、ベクトル空間でも部分空間がつくれる。部分集合と違うところは、部分空間ではそのベクトル空間の部分群となっていて、それがベクトル空間の定義を満たすという条件がつく。ベクトル空間の定義は以下。
V を有限次元n のベクトル空間とし、W が V の部分空間で同じ次元n であるとする。すると W=V である。というのは、その部分空間W は n個の線形独立なベクトルを含み、これらは V の一組の生成系をなすからである。
V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。部分空間の説明の次には、行ベクトル、列ベクトルの説明が続く。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
体K の要素の s個の組 (a1, a2, …, as) を行ベクトルという。このような s個の組全体の集合は次の定義のもとで1つのベクトル空間になる。今後、列ベクトルをはじめ、行列や行列式も出てくるが、ブログでは書けない(書く術を知らない)ので、行列などは書かないことが多くなると思う。必要があれば、図を貼り付けるなどするかもしれないが、基本書かない方向でいく。
α)(a1, a2, …, as)=(b1, b2, …, bs) であるとは ai=bi, i=1, 2, …, s がなりたつこと。
β)(a1, a2, …, as)+(b1, b2, …, bs)=(a1+b1, a2+ b2, …, as+bs)
γ)K の要素b に対して b(a1, a2, …, as)=(ba1, ba2, …, bas)
また、s個の組を次のように縦に書いて、列ベクトルという。
(略)
線形独立、次元、生成系
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第4節。
定理2 の証明のあとに「注意」として、n次元ベクトル空間の n個の線形独立なベクトル a1, a2, …, an は一組の生成系であることが示されている。その説明が以下である。
体K 上のベクトル空間V において、
定理2 の証明のあとに「注意」として、n次元ベクトル空間の n個の線形独立なベクトル a1, a2, …, an は一組の生成系であることが示されている。その説明が以下である。
まず、任意のベクトル a に対して n次元空間の n+1個のベクトル a, a1, a2, …, an は線形従属であり、その従属性を示す式において a の係数は 0 でない。そこでこれを a について解くことにより、a, a1, a2, …, an の線形和として表わされ a1, a2, …, an が生成系であることがわかる。本文では次に、部分空間の説明に入るが、線形独立や次元について確認のために、ここで節末問題の4-1、2を取り上げておこう。解答は省略する。
問題4-1ここまでをまとめる(箇条書き)と、次のようになる。
(1) a1, a2, …, an が線形独立であるための必要十分条件は、このうちどれをとっても他の線形和に等しくないことである。
(2) a1, a2, …, an が線形従属であるための必要十分条件は、このうちの適当な1つが他の線形和に等しいことである。
これを証明せよ。
問題4-2
n次元ベクトル空間V において、次の(1), (2)は同値であることを示せ。
(1) a1, a2, …, an は線形独立である。
(2) a1, a2, …, an は V の生成系である。
体K 上のベクトル空間V において、
ベクトル a1, a2, …, an が線形独立であるとは、
ベクトル a1, a2, …, an が線形従属であるとは、
- x1a1+x2a2+…+xnan=0 ⇔ x1=0 ∧ x2=0 ∧ … ∧ xn=0
- a1, a2, …, an のうちどれをとっても他の線形和に等しくない
- x1a1+x2a2+…+xnan=0 で、x1, x2, …, xn のうちの少なくとも1つは 0 でないような K の要素 x1, x2, …, xn が存在する
- a1, a2, …, an のうちの適当な1つが他の線形和に等しい
V の中で線形独立なベクトルの最大個数を、体K 上のベクトル空間V の次元という。
- V の中に任意個数の線形独立なベクトルが存在するならば次元は無限大である。
- V の中に n個の線形独立なベクトルが存在し、n個より多くのベクトルは必ず線形従属になっているとき、V の次元は n である。
V の要素の列 a1, a2, …, am が V の生成系であるとは、
- V の任意の要素 a が K の適当な要素 ai, i=1, 2, …, m を用いて a1, a2, …, am の線型和 a=Σ [i=1..m] aiai で表わすことができる
V が一組の生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数が V の次元である。
n次元ベクトル空間V において、
a1, a2, …, an は線形独立である ⇔ a1, a2, …, an は V の生成系である
2019/11/22
【定理2】(ベクトル空間の次元)
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第4節「ベクトルの従属性、独立性」の続き。定理2 と、その証明。
いま証明したいことは、「V が一組の生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数が V の次元である」ことである。生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数を r としているので、V の次元が r であるといいたい。a1, a2, …, ar が生成系であることが判明しているので、あとはこれが最大個数かどうかを調べる必要がある。そのため、t>r として任意のベクトルを線型和で表し、それが線型従属であることがわかれば、a1, a2, …, ar、つまり r 個のベクトルが線型独立で最大個数となる。ベクトル b1, b2, …, bt が線型従属であることを証明するために、x1b1+x2b2+…+xtbt=0 となる非自明な xi が K の中に存在することを証明する。
定理1 とは「未知数の個数n が方程式の個数m をこえるとき、同次線形連立方程式は非自明な解をもつ」というもので、ここでは、未知数の個数が t 、方程式の個数が r であり、t>r であるため非自明な解が存在する。非自明な解が存在するということは、x1, x2, …, xt のうちの1つは 0 でない要素が存在する。つまり、ベクトルb1, b2, …, bt が線型従属であることが示され、生成系 a1, a2, …, ar は最大個数である r個のベクトルをもつ線型独立であることが示される。
定理2丁寧に読まなければわからなかったので、証明を引用し、それについての自分なりの解説的なコメントをつけてみる。証明は次からはじまる。
V が一組の生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数が V の次元である。
ai がすべて 0 ならば、V は零ベクトルだけからなる。1・0=0 であるから、零ベクトルは線形従属である。よって V の次元も、ai の中の線形独立な最大個数もともに 0 である。線形従属であるとは、x1a1+x2a2+…+xnan=0 で、x1, x2, …, xn のうちの少なくとも1つは 0 でないような K の要素 x1, x2, …, xn が存在することをいう。零ベクトルに関しては 1・0=0 が成り立ち、0 でない K の要素(ここでは 1)が存在している。したがって零ベクトルは線形従属であり、V の次元も、ai の中の線形独立な最大個数もともに 0 である。
これに対して生成系 a1, a2, …, am の中の線形独立なベクトルの最大個数が r であるとする。このとき番号をつけかえて、a1, a2, …, ar が線形独立であるようにできる。r<m のときは r は線形独立な ai の最大個数であるから、r+1個のベクトル a1, a2, …, ar, ai (r<i≦m) は線形従属であり、したがって次の関係がある。a1, a2, …, ar が線形独立であるので、a1a1+a2a2+…+arar=0 の係数は 0 である。a1a1+a2a2+…+arar=0 の係数が 0 であり、a1a1+a2a2+…+arar+bai=0 の係数の中には 0 でないものが存在するので、b≠0 となる。a1a1+a2a2+…+arar+bai=0 を式変形して ai=-b-1(a1a1+a2a2+…+arar) を得る。
a1a1+a2a2+…+arar+bai=0ここで、係数の中には 0 でないものが存在する。もし b=0 であれば、a1, a2, …, ar が線形従属であることになってしまう。そこで b≠0 であり
ai=-b-1(a1a1+a2a2+…+arar)
よって、V の要素を生成系 a1, a2, …, am の線形和で表した式は、各 ai をこの式でおきかえることによって a1, a2, …, ar の線形和でおきかえることができる。そこで、a1, a2, …, ar だけで一組の生成系となることがわかる。V の要素の列 a1, a2, …, am が V の生成系であるとは、V の任意の要素 a が K の適当な要素 ai, i=1, 2, …, m を用いて a1, a2, …, am の線型和 a=Σ [i=1..m] aiai とできることをいう。ここでは、V の任意の要素が、a1, a2, …, ar の線形和で表すことができるので、a1, a2, …, ar だけで V の生成系となれる。
いま b1, b2, …, bt (t>r) を V の任意のベクトルとする。するとV の任意のベクトルを b1, b2, …, bt として、生成系である a1, a2, …, ar の線形和で表したものが bj=Σ[i=1..r]aijai である。a1, a2, …, ar が V の生成系であることから、V の任意の要素を a1, a2, …, ar の線形和で表すことができる。
bj=Σ[i=1..r]aijaiのような aij が存在する。ここで、ベクトル b1, b2, …, bt が線形従属であること、すなわち
x1b1+x2b2+…+xtbt=0となる非自明な xi が K の中に存在することを証明すればよい。
いま証明したいことは、「V が一組の生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数が V の次元である」ことである。生成系 a1, a2, …, am をもつとき、この生成系の中に含まれる線形独立なベクトルの最大個数を r としているので、V の次元が r であるといいたい。a1, a2, …, ar が生成系であることが判明しているので、あとはこれが最大個数かどうかを調べる必要がある。そのため、t>r として任意のベクトルを線型和で表し、それが線型従属であることがわかれば、a1, a2, …, ar、つまり r 個のベクトルが線型独立で最大個数となる。ベクトル b1, b2, …, bt が線型従属であることを証明するために、x1b1+x2b2+…+xtbt=0 となる非自明な xi が K の中に存在することを証明する。
それには、この式で bj を Σ[i=1..r]aijai でおきかえると ai の線形和が得られ、ai の係数は Σ[j=1..t]xjaij となるのでx1b1+x2b2+…+xtbt=0 の式の bj を Σ[i=1..r]aijai でおきかえると
Σ[j=1..t]xjaij=0, i=1, 2, …, rとなる非自明な xj が存在すればよい。ところが t>r であるから、定理1 によってそのような xj の存在することが保証される。
(左辺)となり、ai の係数は Σ[j=1..t]xjaij となる。そこで、
=x1b1+x2b2+…+xtbt
=x1(Σ[i=1..r]ai1ai)+x2(Σ[i=1..r]ai2ai)+…+xt(Σ[i=1..r]aitai)
=x1(a11a1+a21a2+…+ar1ar)+x2(a12a1+a22a2+…+ar2ar)+…
+xt(a1ta1+a2ta2+…+artar)
Σ[j=1..t]xjaij=0, i=1, 2, …, rとなる非自明な xj が存在すればよく、t>r より xj の存在することが保証される。
定理1 とは「未知数の個数n が方程式の個数m をこえるとき、同次線形連立方程式は非自明な解をもつ」というもので、ここでは、未知数の個数が t 、方程式の個数が r であり、t>r であるため非自明な解が存在する。非自明な解が存在するということは、x1, x2, …, xt のうちの1つは 0 でない要素が存在する。つまり、ベクトルb1, b2, …, bt が線型従属であることが示され、生成系 a1, a2, …, ar は最大個数である r個のベクトルをもつ線型独立であることが示される。
以上のようにして r個より多い個数のベクトルは線形従属であるが、r個のベクトル a1, a2, …, ar は線形独立であるから、V の次元は r である。
2019/11/19
次元、生成系
エミール・アルティン『ガロア理論入門』では、線形従属と線形独立の説明に次いで、次元の説明が述べられる。
結城浩『数学ガール/ガロア理論』では、次元について、次のように書いている。
『ガロア理論入門』は、次元の説明のあと、生成系の話となる。
V の中で線形独立なベクトルの最大個数を、体K 上のベクトル空間V の次元という。すなわち、まず V の中に任意個数の線形独立なベクトルが存在するならば次元は無限大である。これに対して V の中に n個の線形独立なベクトルが存在し、n個より多くのベクトルは必ず線形従属になっているとき、V の次元は n である。(体K 上のベクトル空間V の)次元とは、V の中で線型独立なベクトルの最大個数である。
結城浩『数学ガール/ガロア理論』では、次元について、次のように書いている。
次元とは何か。
まず、線型空間の任意の点を線型結合で一意に表せるベクトルの集合のことを、その線型空間の基底と呼ぶ。
そして、《基底の要素数》のことを次元と呼ぶ。
さらに、線型空間の任意の点を線型結合で表すのに《必要にして十分なベクトルの個数》が次元であるといってよい。
線型空間の任意の点を一意に表したい。そのために必要にして十分なベクトルの集合、これが基底だ。任意の点を一意に表すことから、基底は《線型空間全体を張る最小のベクトルの集合》であり、なおかつ《線型独立になる最大のベクトルの集合》ということも示せる。最小・最大というのは要素数の話だ。そして、基底の選び方は一通りとは限らないけれど、基底をどう選んだとしても、その要素数は変わらない――不変だ。『ガロア理論入門』の方では、基底については書かれていないが、同じことを述べている。
『ガロア理論入門』は、次元の説明のあと、生成系の話となる。
V の要素の列 a1, a2, …, am が V の生成系であるとは、V の任意の要素 a が K の適当な要素 ai, i=1, 2, …, m を用いて a1, a2, …, am の線型和 a=Σ [i=1..m] aiai とできることをいう。(引用者注:線型和の式をテキスト文字での表現にしています。)自分への確認も込めて。Σは i=1 から m までの和のことなので、以下のことだ。
Σ [i=1..m] aiai=a1a1+a2a2+…+amam
2019/11/17
ベクトルの従属性、独立性
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第4節に進む。第4節は「ベクトルの従属性、独立性」。内容は、線形従属・線形独立の説明、次元の定義、行列の階数など。わかっているのか、わかっていないのか、曖昧なところ。
まずは、線形従属・線形独立から。
2次元での線型独立については、テストや試験によく出ていたように思う。『数学ガール/ガロア理論』での例を見てそう思った。
まずは、線形従属・線形独立から。
体K 上のベクトル空間V において、ベクトル a1, a2, …, an が線形従属であるとは、x1a1+x2a2+…+xnan=0 で、x1, x2, …, xn のうちの少なくとも1つは 0 でないような K の要素 x1, x2, …, xn が存在することをいう。そうでないとき a1, a2, …, an を線形独立という。線形従属の説明を主としていたので、最初わかりにくく感じる。線形独立を主とした説明の方に慣れていたためであろう。たとえば次のようなものだ(結城浩『数学ガール/ガロア理論』より。ひとつ目の方は2次元での説明。)。
線型独立
V を《S 上の線型空間》として、v, w∈V および s, t∈S とする。
以下の条件が成り立つとき、ベクトルv とw は線型独立であるという。
sv+tw=0 ⇔ s=0 ∧ t=0線型独立ではないとき、ベクトルv とw は線型従属であるという。
線型独立は一次独立、線型従属は一次従属ともいう。
線型独立(一般化)『数学ガール/ガロア理論』での書き方で、『ガロア理論入門』での内容を書くと、次のようになる。
V を《S 上の線型空間》として、vk∈V および sk∈S とする(k=1, 2, 3, …, m)。以下が成り立つとき、ベクトル v1, v2, …, vm は線型独立であるという。
s1v1+s2v2+…+smvm=0 ⇔ s1=0 ∧ s2=0 ∧ … ∧ sm=0成り立たないとき、ベクトル v1, v2, …, vm は線型従属であるという。
線型従属覚えるには線型独立を主として覚えた方がわかりやすいが、使うにはどちらも理解しておいたほうがいい。
V を《S 上の線型空間》として、vk∈V および sk∈S とする(k=1, 2, 3, …, m)。以下が成り立つとき、ベクトル v1, v2, …, vm は線型従属であるという。
s1v1+s2v2+…+smvm=0 ⇔ s1≠0 ∨ s2≠0 ∨ … ∨ sm≠0成り立たないとき、ベクトル v1, v2, …, vm は線型独立であるという。
2次元での線型独立については、テストや試験によく出ていたように思う。『数学ガール/ガロア理論』での例を見てそう思った。
V を S 上の線型空間と見なすとき、ベクトルv とw が線型独立であることは次のようにして表せる。もちろん(?)僕は、線型空間として意識して使っていたわけではない。ただ、こんなものだとしていただけである。
sv+tw=0 ⇔ s=0 ∧ t=0 (s, t∈S)座標空間を R 上の線型空間と見なすとき、ベクトルe x とey が線型独立であることは次のようにして表せる。
axC を R 上の線型空間と見なすとき、線型独立の条件は、実数と複素数の基本的な命題として登場する。ex +ayey =0 ⇔ ax=0 ∧ ay=0 (ax, ay∈R)
a+bi=0 ⇔ a=0 ∧ b=0 (a, b∈R)Q(√2) を Q 上の線型空間と見なすとき、線型独立の条件はこうだ。
p+q√2=0 ⇔ p=0 ∧ q=0 (p, q∈Q)
2019/11/16
【定理1】未知数の個数が方程式の個数をこえるとき、同次線形連立方程式は非自明な解をもつ
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第3節は、同次線形連立方程式についてである。同次線形連立方程式の説明に次いで、定理1として次の定理とその証明が載っていた。
ここで述べられている定理は、その(同次線形連立方程式での)一般化の証明である。
証明には数学的帰納法が用いられていた。
数学的帰納法は簡単に書くと、次のような証明の方法である。自然数n について、証明したい命題を P(n) として、
定理1の証明では、まず「n>0個の未知数に対して方程式が1つもないとき」に非自明な解が存在することを証明し、次に k<m として「k個より多い未知数をもち、k個の式からなる任意の同次線形連立方程式が非自明な解をもつ」と仮定して進めていた。
式ai1x1+ai2x2+…+ainxn を Li, i=1, 2, …, m とすると、与えられた連立方程式は以下のように書ける。
aij が全部は 0 でないときは、a11≠0 と仮定できる(方程式の順序や未知数の番号を変えたとしても、非自明な解が存在するか否かに影響しないから)。
与えられた連立方程式に非自明な解が存在するための条件は、次の連立方程式が非自明な解をもつことである。
この2番目以下の式を m-1個の同次線形連立方程式とみれば、帰納法の仮定より、非自明な解が存在する(ここでは、未知数 n個で、m-1個(m-1<m)の式だから)。
定理1連立方程式を習ったときだと思うが、未知数が2つ(たとえばx, y)あるのに、方程式が1つだったら、x, y は求められない(不定となる)ということを聞いた。そのときに証明があったのかどうかは覚えていない。ただ、そうなんだ、というくらいにしか頭に残っていない。
未知数の個数n が方程式の個数m をこえるとき、同次線形連立方程式は非自明な解をもつ。
ここで述べられている定理は、その(同次線形連立方程式での)一般化の証明である。
a11x1+a12x2+…+a1nxn=0その証明をそのまま書くとただの丸写しになるので、概略だけを残しておこう。
a21x1+a22x2+…+a2nxn=0
…………
am1x1+am2x2+…+amnxn=0
証明には数学的帰納法が用いられていた。
数学的帰納法は簡単に書くと、次のような証明の方法である。自然数n について、証明したい命題を P(n) として、
- P(1) が正しいことを証明する
- P(k) が正しいと仮定すれば、P(k+1) も正しくなることを証明する
定理1の証明では、まず「n>0個の未知数に対して方程式が1つもないとき」に非自明な解が存在することを証明し、次に k<m として「k個より多い未知数をもち、k個の式からなる任意の同次線形連立方程式が非自明な解をもつ」と仮定して進めていた。
式ai1x1+ai2x2+…+ainxn を Li, i=1, 2, …, m とすると、与えられた連立方程式は以下のように書ける。
L1=L2=…=Lm=0もしすべての i, j に対して aij=0 であれば、x1, x2, …, xn の任意の値が解になる(非自明な解が存在する)。
aij が全部は 0 でないときは、a11≠0 と仮定できる(方程式の順序や未知数の番号を変えたとしても、非自明な解が存在するか否かに影響しないから)。
与えられた連立方程式に非自明な解が存在するための条件は、次の連立方程式が非自明な解をもつことである。
L1=0ちょっと添字が多くて見にくいかもしれないが、たとえば上の2番目の方程式は、L1=0 の両辺に a21/a11 を掛けたものを、L2=0 から引いたものである。連立方程式を解くときに式に①、②と番号をつけて、「①-②✕2 より」としているようなもので、x1 の係数をそろえるために a21/a11 を掛けている(ここでは a11≠0 である)。
L2-a21a11-1L1=0
…………
Lm-am1a11-1L1=0
この2番目以下の式を m-1個の同次線形連立方程式とみれば、帰納法の仮定より、非自明な解が存在する(ここでは、未知数 n個で、m-1個(m-1<m)の式だから)。
2019/11/15
同次線形連立方程式
エミール・アルティン『ガロア理論入門』第1章第3節は、同次線形連立方程式についてである。
同次線形連立方程式という言葉は、この本で初めて見た。学校の授業では学んでいない(と思う)。同次線形連立方程式の「同次」とは、未知数の次数が同じという意味かと思ったが、のちに「非同次線形連立方程式」というのが出てきて、そのときの未知数の次数も同じであったので、違うようだ。同次線形連立方程式と非同次線形連立方程式の違いは、上にも書かれている通り、右辺が 0 であるか、0 でないかの違いだった。
「同次」の意味はちょっと飛ばして、「線形」は、線形代数や線形空間の線形であろう。非常にざっくりとしたイメージだが、線形は足し算というイメージがある。複素数を a+bi と表現したり、ベクトルを aa+ab で表現したりするが、このような形を線形結合と呼んだりする。
そして「連立方程式」は、方程式が連立しているもの。上の同次線形連立方程式は、一般化されているので文字が多い。それだけだ(と、自分に言い聞かせる)。
m は方程式の数、n は未知数の数を表しているといえるだろう。aij の添字のi は何番目の方程式か、j はその方程式の何番目の項か(どの未知数の係数か)を表している。
ともかく、このような形の連立方程式を同次線形連立方程式という。
そして、同次線形連立方程式では、x1=0, …, xn=0 は自明な解であり、x1, x2, …, xn の中に 0 でないものが存在するとき、その解を非自明な解という。
いきなり一般化された形で説明されても、これまでにしっかりと数学を学んできた人にはわかるのだろうが、なかなかイメージできない。なので、わかる範囲での具体例を挙げて確認してみよう。例に挙げるのは、(たしか)中学校で習った連立方程式だ。
親しみのある連立方程式は、2つの未知数 x, y を使った、2つの方程式を並べたものだ。{(中括弧)で2つの方程式をくくらなければならないのかもしれないが、ブログで書くのは面倒くさそうだし、上の同次線形連立方程式もくくっていないので、なしとする。適当に例を作って、
なるほど、自明な解というのがよくわかる。(x, y)=(0, 0)というのは、2つの方程式の右辺が 0 であることより明らかだ。だから自明な解なのか。
一方、非自明な解というのはどうか。実際にこの例の連立方程式を解くと、解は(x, y)=(0, 0) しか存在しないので、この例では非自明な解は存在しないといえる。
では、非自明な解が存在するときはどんなときだろう。
話は飛ぶが、連立方程式の解は、それぞれの方程式を1次関数の直線と見なしたときに、2直線の交点と見ることができることを学んだとき、ちょっとした感動だった。ここで例に挙げた連立方程式は、原点(0, 0)で交わる直線と見ることができる。
そう思ってあらためて方程式を見ると、ax+by=0 という形は、y=(a/b)x (ただし b≠0 のとき)と式変形できて、原点を通る直線であると見なせる。とすると、このような形の連立方程式で非自明な解があるとすれば、
見た瞬間にわかるように、1つめの式の両辺を2倍したものが2つめの式であり、両者は同じものを指している。こういったとき解は「不定」だったか。幾何のイメージにたよってしまうが、直線上の点はすべて解になる。
同次線形連立方程式における非自明な解とは、このような解ではないか、と想像しながら、次に進んでいく。
体K において mn個の要素文字が多い……。が、怖気づいてはいけない(と、自分に言い聞かせる)。
aij、 i=1, 2, …, m、 j=1, 2, …, nが与えられたとき、次の連立方程式の K における解xiを考える。
a11x1+a12x2+…+a1nxn=0このように右辺が 0 の連立方程式を同次線形連立方程式という。x1=0, …, xn=0 は解であり、これを自明な解といい、x1, x2, …, xn の中に 0 でないものが存在するとき、この解を非自明な解という。
a21x1+a22x2+…+a2nxn=0
…
am1x1+am2x2+…+amnxn=0
同次線形連立方程式という言葉は、この本で初めて見た。学校の授業では学んでいない(と思う)。同次線形連立方程式の「同次」とは、未知数の次数が同じという意味かと思ったが、のちに「非同次線形連立方程式」というのが出てきて、そのときの未知数の次数も同じであったので、違うようだ。同次線形連立方程式と非同次線形連立方程式の違いは、上にも書かれている通り、右辺が 0 であるか、0 でないかの違いだった。
「同次」の意味はちょっと飛ばして、「線形」は、線形代数や線形空間の線形であろう。非常にざっくりとしたイメージだが、線形は足し算というイメージがある。複素数を a+bi と表現したり、ベクトルを aa+ab で表現したりするが、このような形を線形結合と呼んだりする。
そして「連立方程式」は、方程式が連立しているもの。上の同次線形連立方程式は、一般化されているので文字が多い。それだけだ(と、自分に言い聞かせる)。
m は方程式の数、n は未知数の数を表しているといえるだろう。aij の添字のi は何番目の方程式か、j はその方程式の何番目の項か(どの未知数の係数か)を表している。
ともかく、このような形の連立方程式を同次線形連立方程式という。
そして、同次線形連立方程式では、x1=0, …, xn=0 は自明な解であり、x1, x2, …, xn の中に 0 でないものが存在するとき、その解を非自明な解という。
いきなり一般化された形で説明されても、これまでにしっかりと数学を学んできた人にはわかるのだろうが、なかなかイメージできない。なので、わかる範囲での具体例を挙げて確認してみよう。例に挙げるのは、(たしか)中学校で習った連立方程式だ。
親しみのある連立方程式は、2つの未知数 x, y を使った、2つの方程式を並べたものだ。{(中括弧)で2つの方程式をくくらなければならないのかもしれないが、ブログで書くのは面倒くさそうだし、上の同次線形連立方程式もくくっていないので、なしとする。適当に例を作って、
x+2y=0の連立方程式で考えてみる。
3x+4y=0
なるほど、自明な解というのがよくわかる。(x, y)=(0, 0)というのは、2つの方程式の右辺が 0 であることより明らかだ。だから自明な解なのか。
一方、非自明な解というのはどうか。実際にこの例の連立方程式を解くと、解は(x, y)=(0, 0) しか存在しないので、この例では非自明な解は存在しないといえる。
では、非自明な解が存在するときはどんなときだろう。
話は飛ぶが、連立方程式の解は、それぞれの方程式を1次関数の直線と見なしたときに、2直線の交点と見ることができることを学んだとき、ちょっとした感動だった。ここで例に挙げた連立方程式は、原点(0, 0)で交わる直線と見ることができる。
そう思ってあらためて方程式を見ると、ax+by=0 という形は、y=(a/b)x (ただし b≠0 のとき)と式変形できて、原点を通る直線であると見なせる。とすると、このような形の連立方程式で非自明な解があるとすれば、
x+2y=0のような連立方程式である。
2x+4y=0
見た瞬間にわかるように、1つめの式の両辺を2倍したものが2つめの式であり、両者は同じものを指している。こういったとき解は「不定」だったか。幾何のイメージにたよってしまうが、直線上の点はすべて解になる。
同次線形連立方程式における非自明な解とは、このような解ではないか、と想像しながら、次に進んでいく。
2019/11/14
ベクトルとスカラーと余談
エミール・アルティン『ガロア理論入門』での(左)ベクトル空間の定義を再度確認しよう。
ベクトル(vector)とスカラー(scalar)という用語が出てきたので、確認しておこう。V が S 上の線型空間のとき、アーベル群V の元のことをベクトルと呼び、体S の元のことをスカラーと呼ぶ(『数学ガール/ガロア理論』の方での記述)。元とは集合の要素のこと。
なお、『ガロア理論入門』の方では「線形(代数)」、『数学ガール/ガロア理論』の方では「線型」と、漢字が違っているが、同じものを指している(古くは線形、最近は線型と書かれていることが多い)。
普段、ベクトル空間を意識することは少ないが、数学ではしらずしらずのうちに使っている。たとえば、座標平面。座標平面を《R 上の線型空間》と見なすことができる(R は実数全体の集合)。座標平面上の点を位置ベクトルと呼ぶこともある。またたとえば、複素数。複素数全体の集合C をベクトルの集合、実数全体の集合R をスカラーの集合として、C は《R 上の線型空間》と見なすことができる。
ベクトル空間(線型空間)の話は、読んだり聞いたりすると納得できるのだが、自ら説明するとなるとまだ自信がないというのが正直なところである。このあと、線形独立や線型従属、そして次元の話が出てくるので、もう少ししっかりと理解しておきたいところである。
ところで、関係ないかもしれないが、ベクトルとスカラーの話を聞くと、僕は単位のことを思い出す。
子供のころ、100円玉が4枚あったら、100(円)✕4(枚)=400(円)となるが、なんで400(枚)とならないのか、物理的に100円玉が4枚だし、感覚的にももちろん400円と思うのだが、400枚としない理屈みたいなものがわからなかった。もし、1円玉を100枚持っている人が4人いたら、100(円 or 枚)✕4(人)=400(円 or 枚)だから「枚」が答えに出ないというわけではない。しかしここでも400(人)とはならない(していない)。メートル(m)とメートル(m)を掛けたら平方メートル(m2)となるのに、(円)と(枚)を掛けて(円枚)という単位にはならない。
僕たちは日常の計算で自然に単位を考えている。それが不思議だった。そして、すごいことだと思う。
100(円)✕4(枚)=400(円)のたとえでいうと、100(円)はベクトル、4(枚)はスカラー、400(円)はベクトルである。ベクトルのスカラー倍はベクトルである。基本的には枚数には自然数となる。ひょっとすると「環上の加群」とはこんなことを考えているのではないか……と、これは妄想である。たぶん、このような単位の計算とベクトル・スカラーの話とはつながっていると思うが、しっかりと説明できるほど結びついてはいない。
V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。ところで、ベクトル空間は線型空間とも呼ばれる。結城浩『数学ガール/ガロア理論』に、線型空間の公理が載っていたので比べてみよう。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
線型空間の公理『ガロア理論入門』の方では左ベクトル空間と右ベクトル空間を区別している点と、記号が異なる点を除けば、同じことを言っている。『数学ガール/ガロア理論』での定義(公理)には VS1 というような番号がふってあるが、これはおそらく vector space の略である(もしかすると、vector と scalar かもしれない)。
アーベル群V と体S が以下の公理を満たすとき、
V を《S 上の線型空間》という。
ただし、v, w は V の任意の元、s, t は S の任意の元とする。
VS1 sv は V の要素になる。(ベクトルのスカラー倍)
VS2 s(v+w)=sv+sw が成り立つ。(スカラー倍の分配法則)
VS3 (s+t)v=sv+tv が成り立つ。(ベクトルの分配法則)
(左辺の+はスカラーの和、右辺の+はベクトルの和)
VS4 (st)v=s(tv) が成り立つ。(スカラー倍の結合法則)
VS5 1v=v が成り立つ。
ベクトル(vector)とスカラー(scalar)という用語が出てきたので、確認しておこう。V が S 上の線型空間のとき、アーベル群V の元のことをベクトルと呼び、体S の元のことをスカラーと呼ぶ(『数学ガール/ガロア理論』の方での記述)。元とは集合の要素のこと。
なお、『ガロア理論入門』の方では「線形(代数)」、『数学ガール/ガロア理論』の方では「線型」と、漢字が違っているが、同じものを指している(古くは線形、最近は線型と書かれていることが多い)。
普段、ベクトル空間を意識することは少ないが、数学ではしらずしらずのうちに使っている。たとえば、座標平面。座標平面を《R 上の線型空間》と見なすことができる(R は実数全体の集合)。座標平面上の点を位置ベクトルと呼ぶこともある。またたとえば、複素数。複素数全体の集合C をベクトルの集合、実数全体の集合R をスカラーの集合として、C は《R 上の線型空間》と見なすことができる。
ベクトル空間(線型空間)の話は、読んだり聞いたりすると納得できるのだが、自ら説明するとなるとまだ自信がないというのが正直なところである。このあと、線形独立や線型従属、そして次元の話が出てくるので、もう少ししっかりと理解しておきたいところである。
ところで、関係ないかもしれないが、ベクトルとスカラーの話を聞くと、僕は単位のことを思い出す。
子供のころ、100円玉が4枚あったら、100(円)✕4(枚)=400(円)となるが、なんで400(枚)とならないのか、物理的に100円玉が4枚だし、感覚的にももちろん400円と思うのだが、400枚としない理屈みたいなものがわからなかった。もし、1円玉を100枚持っている人が4人いたら、100(円 or 枚)✕4(人)=400(円 or 枚)だから「枚」が答えに出ないというわけではない。しかしここでも400(人)とはならない(していない)。メートル(m)とメートル(m)を掛けたら平方メートル(m2)となるのに、(円)と(枚)を掛けて(円枚)という単位にはならない。
僕たちは日常の計算で自然に単位を考えている。それが不思議だった。そして、すごいことだと思う。
100(円)✕4(枚)=400(円)のたとえでいうと、100(円)はベクトル、4(枚)はスカラー、400(円)はベクトルである。ベクトルのスカラー倍はベクトルである。基本的には枚数には自然数となる。ひょっとすると「環上の加群」とはこんなことを考えているのではないか……と、これは妄想である。たぶん、このような単位の計算とベクトル・スカラーの話とはつながっていると思うが、しっかりと説明できるほど結びついてはいない。
2019/11/12
ベクトル空間の問題
エミール・アルティン『ガロア理論入門』の第1章第2節の問題。
まずは問題2-1の(1) a0=0 について。僕の解答。
続いて、(-1)a=-a について。少し工夫が必要そうだ。文字式に慣れていると当たり前のことのように思うが、ここでわかっていることは、空間ベクトルの定義(公理)だけである。それとこれまでに証明した 0a=0、a0=0 は使える。
(-1)a=-a の左辺 (-1)a は、V の要素 aa として定義されているかたちだ。では、右辺の -a はどうだろう。難しく考えすぎだろうか。本の解答を見る。
次は問題2-1の(2)、aa=0 ならば a=0 または a=0 であることの証明。a=0 ならば 0a=0、そして、a=0 ならば a0=0 はここまでに証明したことにある。今回はその逆の証明だ。さて、どうする。
思いつかず、解答を見る。
普段(とはいってもほとんどない、が)は文字式の計算を何気なくしているが、当たり前にしていることを証明するのはなかなか難しい。
問題2-1 体K 上のベクトル空間V においてベクトル空間(左ベクトル空間)の定義は以下。
(1) a0=0、(-1)a=-a を証明せよ。
(2) aa=0 ならば a=0 または a=0 であることを証明せよ。
V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。前回、0a=0 の証明があったので、それも見ておく。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
aa=(a+0)a=aa+0a
∴0a=0
まずは問題2-1の(1) a0=0 について。僕の解答。
aa=a(a+0)=aa+a0本での解答は以下。
∴a0=0
a0=a(0+0)=a0+a0 から a0=0これはOKだろう。
続いて、(-1)a=-a について。少し工夫が必要そうだ。文字式に慣れていると当たり前のことのように思うが、ここでわかっていることは、空間ベクトルの定義(公理)だけである。それとこれまでに証明した 0a=0、a0=0 は使える。
(-1)a=-a の左辺 (-1)a は、V の要素 aa として定義されているかたちだ。では、右辺の -a はどうだろう。難しく考えすぎだろうか。本の解答を見る。
a+(-1)a={1+(-1)}a=0a=0 から (-1)a=-aなるほど、a の属する V は加群、つまり、加算に関する可換群なので、a の逆元 -a が存在することを利用したのだろう。
次は問題2-1の(2)、aa=0 ならば a=0 または a=0 であることの証明。a=0 ならば 0a=0、そして、a=0 ならば a0=0 はここまでに証明したことにある。今回はその逆の証明だ。さて、どうする。
思いつかず、解答を見る。
aa=0 で a≠0 とすると、K の中に a-1 が存在する。なるほど、今度は K の中に、乗算に関して0以外の要素に逆元a-1 が存在することを利用したのか。
a-1(aa)=(a-1a)a=1a=a, a-10=0から a=0 となる。
普段(とはいってもほとんどない、が)は文字式の計算を何気なくしているが、当たり前にしていることを証明するのはなかなか難しい。
2019/11/11
ベクトル空間
さて、やっと次に移ろう。エミール・アルティン『ガロア理論入門』の第1章「線形代数」の第2節「ベクトル空間」である。内容はベクトル空間の定義についての説明だ。
まず「加群」について。漢字からは「加法に関する群」であろうと予想はできるが、念のためインターネットで調べてみる。「加群」で検索すると、「環上の加群」という用語がたくさんヒットした。環上の「環」は、おそらく整数環などの「環」であろう。「体」上ではなく「環」上での加群ということも考えられているということを知る。「環上の加群」についても、いつか勉強するかもしれない。いまのところは、先に進もう。
予想はほぼ当たっていて、加群とは、加法に関する可換群(アーベル群)のことであった。
ベクトルといえば、アルファベットの上に矢印が書かれたものを思い出す。x のような記号だ。太字のアルファベットは矢印をつけたものと同じような意味をもつと考えてもいいだろう。ベクトルがどのような意味なのかあまりわかっていないが、ここは定義であるので、まずは受け入れよう。
「左ベクトル空間」の「左」は、V の任意の要素 a に、K の任意の要素 a を左から掛けているから「左ベクトル空間」である。右から掛ける、つまり、aa が定義され、同様の条件が満たされていた場合には「右ベクトル空間」と呼ばれる。「左ベクトル空間」と「右ベクトル空間」に分けているのは、有理数同士や実数同士ならば左から掛けても右から掛けてもその演算結果は同じ、つまり交換法則が成り立つが、一般的な群や体を考える場合には交換法則が成り立たない場合もあるからである。『ガロア理論入門』では、「このあと、左ベクトル空間と右ベクトル空間を同時に扱うことはないので、左、右をつけないで単にベクトル空間とよぶことにしよう」としている。
さて、ベクトル空間の定義のあと、以下のことが書かれてあった。
与えられた定義(公理)や(すでに証明された)定理から新たな定理を導くことが証明である。
では、この節の問題を見てみよう。
V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。このブログではわかりにくいかもしれないが、V の要素は太字のアルファベットで記載されている。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
まず「加群」について。漢字からは「加法に関する群」であろうと予想はできるが、念のためインターネットで調べてみる。「加群」で検索すると、「環上の加群」という用語がたくさんヒットした。環上の「環」は、おそらく整数環などの「環」であろう。「体」上ではなく「環」上での加群ということも考えられているということを知る。「環上の加群」についても、いつか勉強するかもしれない。いまのところは、先に進もう。
予想はほぼ当たっていて、加群とは、加法に関する可換群(アーベル群)のことであった。
ベクトルといえば、アルファベットの上に矢印が書かれたものを思い出す。
「左ベクトル空間」の「左」は、V の任意の要素 a に、K の任意の要素 a を左から掛けているから「左ベクトル空間」である。右から掛ける、つまり、aa が定義され、同様の条件が満たされていた場合には「右ベクトル空間」と呼ばれる。「左ベクトル空間」と「右ベクトル空間」に分けているのは、有理数同士や実数同士ならば左から掛けても右から掛けてもその演算結果は同じ、つまり交換法則が成り立つが、一般的な群や体を考える場合には交換法則が成り立たない場合もあるからである。『ガロア理論入門』では、「このあと、左ベクトル空間と右ベクトル空間を同時に扱うことはないので、左、右をつけないで単にベクトル空間とよぶことにしよう」としている。
さて、ベクトル空間の定義のあと、以下のことが書かれてあった。
V を K 上の左ベクトル空間とし、0 と 0 をそれぞれ K と V の零とするとき、はじめの式とは、0a=0 のことである。0a=0 を導いたやり方を丁寧に書いてみます(イコールの位置などそろえておらず、すみません)。
0a=0、 a0=0がなりたつことが容易に確かめられる。たとえばはじめの式は、次の等式から導くことができる。
aa=(a+0)a=aa+0a
aa上の最初、1行目の aa は、「K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて」と、すでに定義されているもの。2行目では、その a を a+0 としている。a は体K の要素で、体では加法が定義され、零元(単位元)があるので、a=a+0 である。そして3行目は、2行目の式に空間ベクトルの条件のひとつ、(a+b)a=aa+ba を使っている。1行目と3行目をつなげると、aa=aa+0a で、右辺の 0a が、0a=0 でなければならない。
=(a+0)a
=aa+0a
与えられた定義(公理)や(すでに証明された)定理から新たな定理を導くことが証明である。
では、この節の問題を見てみよう。
問題2-1 体K 上のベクトル空間V において
(1) a0=0、(-1)a=-a を証明せよ。
(2) aa=0 ならば a=0 または a=0 であることを証明せよ。
2019/11/09
2019/11/08
整数環と剰余環
整数全体の集合は割り算(除法、除算)に関して閉じていない。
整数同士の足し算の結果は整数になる。整数同士の引き算も整数、整数同士の掛け算も整数になる。集合の要素同士の演算結果がその集合の中にあることを閉じていると表現する。整数全体の集合は、加法・減法・乗法に関しては閉じているが、除法に関しては閉じていない。
「環」というのは以下のようなものである(厳密には「乗法の単位元が存在する可換環」)。
定義のなかには減法についての記述がないが、加法と加法に関する逆元があれば減法ができる。除法についても、乗法と乗法に関する逆元があれば除法は可能だか、整数全体の集合のなかには逆元が存在しない。
整数全体の集合はよくZで表される。要素の数は無限である。
整数を 2 で割った余りを見ると、割り切れて余りが 0 になるか、1 になるかのどちらかである。2 で割り切れる整数には偶数、1 余る数には奇数という名前がついている。整数を 2 で割った余りを集合として、
一般に、ある数 m(整数)で割った余りの集合を、
この m が素数であるとき、集合Z/mZ を体と見なすことができる。p を素数とすると、集合Z/pZ は体となり、有限体Fpと呼ばれる。
整数同士の足し算の結果は整数になる。整数同士の引き算も整数、整数同士の掛け算も整数になる。集合の要素同士の演算結果がその集合の中にあることを閉じていると表現する。整数全体の集合は、加法・減法・乗法に関しては閉じているが、除法に関しては閉じていない。
演算の定義(演算に関して閉じている)整数全体の集合ではなく、有理数全体の集合とすると、除法に関しても閉じている。
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素 a, b に関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
「環」というのは以下のようなものである(厳密には「乗法の単位元が存在する可換環」)。
環の定義(環の公理)整数を抽象化して環という概念をつくったのか、それとも環という概念ができてから整数にも当てはまったのか、歴史的な事情は知らない。ともかく、整数全体の集合は、加法と乗法に関して環になる。整数環という。
以下の公理を満たす集合を環と呼ぶ。
- 演算+(加法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(0と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- すべての要素について逆元が存在する
- 演算×(乗法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(1と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- 演算+と×に関して――
- すべての要素について分配法則が成り立つ
定義のなかには減法についての記述がないが、加法と加法に関する逆元があれば減法ができる。除法についても、乗法と乗法に関する逆元があれば除法は可能だか、整数全体の集合のなかには逆元が存在しない。
逆元の定義(逆元の公理)整数ではなく、有理数全体の集合とすると、乗法に関する逆元が存在するので、除法が可能である。有理数全体の集合には「環」ではなく「体」という名前がついている(「体の定義」参照)。「体」と「環」の違いは、乗法に関する逆元が存在するかしないかの違いである。
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
整数全体の集合はよくZで表される。要素の数は無限である。
Z={…, -2, -1, 0, 1, 2, …}
整数を 2 で割った余りを見ると、割り切れて余りが 0 になるか、1 になるかのどちらかである。2 で割り切れる整数には偶数、1 余る数には奇数という名前がついている。整数を 2 で割った余りを集合として、
Z/2Z={0, 1}と書く。3 で割った余りならば、余りは 0 か 1 か 2 になるので、
Z/3Z={0, 1, 2}と書ける。
一般に、ある数 m(整数)で割った余りの集合を、
Z/mZ={0, 1, 2, …, m-1}と書くことができる。集合Z/mZ には剰余環という名前がついている。加法、乗法を mod m で考えれば環となるからである。整数環の要素数が無限であったのに対して、剰余環は有限の要素数である。
この m が素数であるとき、集合Z/mZ を体と見なすことができる。p を素数とすると、集合Z/pZ は体となり、有限体Fpと呼ばれる。
2019/11/07
mod の話
mod についてまとめておこう。今回は余談にならぬよう…。
前回、余りの定義を書いた。次のようなものだ。
mod は、剰余(余り)を求める演算である。整数での余りの定義を使って、mod を次のように定義する。
先の例で、7 を 3 で割った余りと、7 を -3 で割った余りが等しくなったが、7 mod 3 = 7 mod (-3) という書き方は見たことがない。当然、割る数が負数であること割る数が異なるので合同式には表せない。また、mod の演算は「剰余による分類」がメインであるためであろう、負数を法とすることは稀である(調べていないのでないとは言い切れない)。
また、a mod m = b mod m を次のように書くこともできる。
たとえば、12を法として、15と75は合同である。
前回、余りの定義を書いた。次のようなものだ。
余りの定義(自然数)自然数だけでなく、整数でも使えるようにしよう。ゼロ割りをしないように b≠0 として、余りの条件の不等式に b が負数のときも考えて絶対値 |b| を使う。
a を b で割ったときの商 q と余り r を、次式で定義する。
a=bq +r(0≦r<b)ここで a, b は自然数、q, r は自然数または0とする。
余りの定義(整数)商は英語で quotient、余りは remainder なので、商を q、剰余(余り)を r で表すことが多い。
a を b で割ったときの商 q と余り r を、次式で定義する。
a=bq +r(0≦r<|b|)a, b, q, r は整数で、b≠0 とする
mod は、剰余(余り)を求める演算である。整数での余りの定義を使って、mod を次のように定義する。
mod の定義(整数)たとえば、7 を 3 で割ると、商は 2 で、余りは 1 となる。mod を使って書くと、次のようになる。余りの定義式の方での様子も書いておく。
a, b, q, r は整数で、b≠0 とする。
a mod b =r ⇔ a=bq +r(0≦r<|b|)
7 mod 3 =1 ⇔ 7=3✕2+17 を -3 で割ると、商は -2 で、余りは 1 となる。
7 mod (-3) =1 ⇔ 7=(-3)✕(-2)+110 を 3 で割ると、商は 3、余りは 1。
10 mod 3 =1 ⇔ 10=3✕3+17 と 10 は同じではないが、7 を 3 で割った余りと、10 を 3 で割った余りは等しい。このことを次のように書く。
7 ≡ 10(mod 3)記号≡の名前(読み方)は知らないが、合同を表す。=を使った式を等式というが、≡を使った式を合同式という。7 ≡ 10(mod 3)という合同式は「3 を法として、7 と 10 は合同である」と読む。mod は modulo の略で、法とか剰余という意味。
a ≡ b (mod m) ⇔ a mod m = b mod mである。
先の例で、7 を 3 で割った余りと、7 を -3 で割った余りが等しくなったが、7 mod 3 = 7 mod (-3) という書き方は見たことがない。当然、割る数が負数であること割る数が異なるので合同式には表せない。また、mod の演算は「剰余による分類」がメインであるためであろう、負数を法とすることは稀である(調べていないのでないとは言い切れない)。
また、a mod m = b mod m を次のように書くこともできる。
(a-b) mod m =0m を法として合同な数同士の差は、m の倍数になることを示している。
mod の言い換え合同式について、a ≡ b(mod m)のとき、以下が成り立つ。
a, b, m は整数で、m≠0 とする。
a ≡ b(mod m) m を法として合同
⇔ a mod m = b mod m m で割った余りが等しい
⇔ (a-b) mod m =0 差が m の倍数
a+C ≡ b+C (mod m) 両辺に足しても合同しかし、等式とは異なり、除算(割り算)では成り立たない場合がある。
a-C ≡ b-C (mod m) 両辺から引いても合同
a✕C ≡ b✕C (mod m) 両辺に掛けても合同
たとえば、12を法として、15と75は合同である。
15 ≡ 75 (mod 12)両辺を3で割った場合は、合同ではない。
(15÷3) mod 12 = 5 mod 12 = 5両辺を5で割った場合は、合同である。
(75÷3) mod 12 = 25 mod 12 = 1
(15÷5) mod 12 = 3 mod 12 = 3合同式では、上の例でいうと、法となっている12と、1以外の共通の約数を持っていない場合、つまり互いに素な数であれば除算が可能である。12と3は互いに素ではない。12と5は互いに素である。
(75÷5) mod 12 = 15 mod 12 = 3
合同式と除算
a, b, C, m を整数とする。
C が m と互いに素のとき、以下が成り立つ。
a✕C ≡ b✕C (mod m) ⇒ a ≡ b (mod m)
「余り」の話
mod についてまとめておこう。
と思ったが、ここでは脱線した内容で終えている。
mod などと書いているが、簡単にいうと「余り」である。小学校の算数・割り算での「7÷3=2…1(7割る3は2、余り1)」の「余り」である。少し難しくいうと「剰余」という。小数や分数などを学び、「余り」を意識して使うことはあまりない(と言ってみたかっただけです)。
「余り」自体を意識することはあまりないが、「剰余による分類」は無意識のうちに使っている。たとえば奇数と偶数。奇数は2で割って1余る数で、偶数は2で割り切れる数。余りの数で奇数と偶数に分類している。またたとえばワークショップなどで3つのグループに分けるときに「こっちから、1・2・3、1・2・3と番号を言ってください」と言って、1のグループと2のグループと3のグループに分けたりする。これも考えようによっては「剰余(余り)による分類」である(ただし、3で割って余り3とは言えないので少し修正は必要だが)。他にも、時間(15時を3時と言ったりする)や、数字でない例を挙げると、曜日なども「剰余による分類」と考えることができる。
今日は2019年11月7日で木曜日だが、7日後の11月14日も木曜日である。11月1日が金曜日であるため、金曜日を「1」として、「金=1、土=2、日=3、月=4、火=5、水=6、木=0」とすると、11月の何日かがわかれば、7で割って余りを調べることで、何曜日なのかがわかる。たとえば、(2019年11月)20日ならば、「20÷7=2…6」となるので水曜日である。
このとき、20÷7の答え(商という)にはあまり注目していない。商ではなく、余りに注目した演算が mod である。
割られる数を a、割る数を b、商を q、余りを r として数式を書くと、
ちょっと思い出したが、ガロア理論を勉強している本のひとつ、中村享『ガロアの群論』の一番最初に、一次方程式の話への導入で「盗人算」の紹介があった。吉田光由の『塵劫記』(江戸時代の算数の本)に載っている次のような問題だ。
簡単な方程式でもあり、答えや解き方などに疑問点はないのだが、ただ1点だけ気になるところがある。それは、問題文の「7反ずつ分けると6反余る」というのはおかしいのでは?ということだ。盗賊の人数が5人なら、7反ずつ分けて6反余らせるのではなく、「8反ずつ分けて1反余る」としたほうがいいんじゃないかと思う。
これでは、「余談」である。お後がよろしいようで。
(mod についてのまとめは、また後日。)
あ、『ガロアの群論』自体は、(まだしっかりと理解できていないところもありますが、)ガロアの考えたことを丁寧にたどって、方程式が解ける条件を解説したいい本です。
と思ったが、ここでは脱線した内容で終えている。
mod などと書いているが、簡単にいうと「余り」である。小学校の算数・割り算での「7÷3=2…1(7割る3は2、余り1)」の「余り」である。少し難しくいうと「剰余」という。小数や分数などを学び、「余り」を意識して使うことはあまりない(と言ってみたかっただけです)。
「余り」自体を意識することはあまりないが、「剰余による分類」は無意識のうちに使っている。たとえば奇数と偶数。奇数は2で割って1余る数で、偶数は2で割り切れる数。余りの数で奇数と偶数に分類している。またたとえばワークショップなどで3つのグループに分けるときに「こっちから、1・2・3、1・2・3と番号を言ってください」と言って、1のグループと2のグループと3のグループに分けたりする。これも考えようによっては「剰余(余り)による分類」である(ただし、3で割って余り3とは言えないので少し修正は必要だが)。他にも、時間(15時を3時と言ったりする)や、数字でない例を挙げると、曜日なども「剰余による分類」と考えることができる。
今日は2019年11月7日で木曜日だが、7日後の11月14日も木曜日である。11月1日が金曜日であるため、金曜日を「1」として、「金=1、土=2、日=3、月=4、火=5、水=6、木=0」とすると、11月の何日かがわかれば、7で割って余りを調べることで、何曜日なのかがわかる。たとえば、(2019年11月)20日ならば、「20÷7=2…6」となるので水曜日である。
このとき、20÷7の答え(商という)にはあまり注目していない。商ではなく、余りに注目した演算が mod である。
割られる数を a、割る数を b、商を q、余りを r として数式を書くと、
a = bq + r (0≦r<b)となる(a, b, q, r は自然数または 0 とする)。r は余りなので、0≦r<b という条件がついている。「20÷7=1…13」のように、余り(r)が割る数(b)より大きくなってはいけない。
ちょっと思い出したが、ガロア理論を勉強している本のひとつ、中村享『ガロアの群論』の一番最初に、一次方程式の話への導入で「盗人算」の紹介があった。吉田光由の『塵劫記』(江戸時代の算数の本)に載っている次のような問題だ。
盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「7反ずつ分けると8反余るし、8反ずつ分けると7反足りない。どうしたものかなあ」『塵劫記』では答えとして、「盗賊は8足す7で15人、反物は15人掛ける8反に7反足りないから113反」としか載っていない。盗賊の人数を x として、方程式を立てて――と話が続く。そして『塵劫記』には(盗人算として)これ1問しか出ていないので、「盗賊の人数や盗品の数が違っても、読者は解けたのだろうか?」として、数字を変えた盗人算の例を挙げる。
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「7反ずつ分けると6反余るし、9反ずつ分けると4反足りない。どうしたものかなあ」そして方程式を立てて、盗賊の人数は5人、反物は41反という答えを出す。
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
簡単な方程式でもあり、答えや解き方などに疑問点はないのだが、ただ1点だけ気になるところがある。それは、問題文の「7反ずつ分けると6反余る」というのはおかしいのでは?ということだ。盗賊の人数が5人なら、7反ずつ分けて6反余らせるのではなく、「8反ずつ分けて1反余る」としたほうがいいんじゃないかと思う。
これでは、「余談」である。お後がよろしいようで。
(mod についてのまとめは、また後日。)
あ、『ガロアの群論』自体は、(まだしっかりと理解できていないところもありますが、)ガロアの考えたことを丁寧にたどって、方程式が解ける条件を解説したいい本です。
2019/11/06
有限体と剰余環
引き続き、エミール・アルティン『ガロア理論入門』の問題1-4より、有限体について考えます。
次なる疑問は、有限個の要素からなる体であれば、その有限体は、素数 p を法とする剰余環であるかどうかです。
そこで思い出されるのが、問題1-3です。
仮に、素数でない数(たとえば 4)で見てみましょう。Z4={0, 1, 2, 3}を考えます。
Z4における、a⊕b、a○b の演算表は以下のようになります(演算表では⊕、○ではなく、+、✕と書いています)。
注目してほしいのは、乗法の演算表で、掛け算の九九での言い方を借りると、2 の段のところです(黄色で目立たせています)。以前、有限体F2、F3、F5、F7の演算表を挙げましたが、それらの演算表と比べてみるとわかりやすいかもしれません。
集合 Z4 の要素である 2 を使った掛け算(mod)の演算結果は、0 と 2 だけで、1 と 3 は現れません。
0 と 正の整数全体からなる集合をZとすると、集合Zの要素の数は無限になります。問題1-3における集合 Zp は、集合Zに p-1 という上限(この言い方が適切かどうかはわかりません)をつけて有限とした集合です。このとき、p が素数であるときに、mod での加法・乗法に関して Zp は体(可換体)と見なすことができます。
集合Z自体も、逆元をもたないため、体とは言えません。しかし、p-1 という上限をつけて有限とし(これはつまり、要素数を p 個としたということです)、演算を mod p での加法・乗法とすると、問題1-3の解答にあるように、p が素数であるときの集合 Zp の(0を除く)全ての要素が逆元を持ち、体と見なせます。
長くなってきたので、詳しい定義などは書きませんが、整数全体の集合Z(上と同じ記号を使ってすみません)は、体ではなく「環(整数環)」という名前がついています。そして整数環Z(無限の要素数)を有限(m 個)にして、mod m での演算として考えたものを剰余環 Z/mZ といいます。そして、その剰余環Z/mZ で m が素数のとき、有限体として見なすことができるのです。
問題1-3では、剰余環 Z/mZ で m が素数のときには有限体になること、問題1-4では、有限体であれば、素数 p を法とした剰余環 Z/pZ であることを言っているように思えます。
問題1-4については、ひとまずここまでとしたいと思います。
問題1-4
有限個の要素からなる体を有限体という。有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはxq=xを満たすことを証明せよ(実は有限体はすべて可換であることが証明される)。
(解答)前回、問題文中にあるxq=xというのはフェルマーの小定理のことではないか、ということを書きました。
0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる。よってx≠0のときxq-1=1。よってxq=x。x=0もこれを満たす。
フェルマーの小定理前回の例で挙げていたのは有限体Fp(=素数 p を法とする剰余環 Z/pZ)で、乗法の演算として mod を使ったものでしたので、フェルマーの小定理が出てきてもおかしくはありません。
p が素数,a が任意の自然数のとき
ap ≡ a mod p
特に p が素数で,a が p と互いに素な自然数のとき
ap−1 ≡ 1 mod p
次なる疑問は、有限個の要素からなる体であれば、その有限体は、素数 p を法とする剰余環であるかどうかです。
そこで思い出されるのが、問題1-3です。
問題1-3
p を素数とし、
Zp= {0, 1, 2, …, p-1}とする。a∈Zp、b∈Zp のとき、a⊕b、a○b をそれぞれ a+b、ab を p で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
(解答)集合 Zp が、p が素数であるときには、演算⊕、○のもとで可換体である、ということが問題となっています。
体の条件のうちの大部分は簡単に示せるので省略する。a≠0 のとき a○b=1 となる b の存在を示す。a は 1, 2, …, p-1 のどれかであるから、p と互いに素である。よって ax+py=1 となるような整数x, yが存在する。このとき x=pq+r (0≦r<p) のような q, r をとると、
apq + ar + py = 1 ∴ar = p (- aq - y) + 1よって ar を p で割った余りは 1 であり、r∈Zp であるから a○r=1。この r を b にとればよい。
仮に、素数でない数(たとえば 4)で見てみましょう。Z4={0, 1, 2, 3}を考えます。
Z4における、a⊕b、a○b の演算表は以下のようになります(演算表では⊕、○ではなく、+、✕と書いています)。
注目してほしいのは、乗法の演算表で、掛け算の九九での言い方を借りると、2 の段のところです(黄色で目立たせています)。以前、有限体F2、F3、F5、F7の演算表を挙げましたが、それらの演算表と比べてみるとわかりやすいかもしれません。
集合 Z4 の要素である 2 を使った掛け算(mod)の演算結果は、0 と 2 だけで、1 と 3 は現れません。
2✕0=0 ⇒ 4 で割った余りは 0特に 1 が現れないというのが重要で、1 が現れないということは、2 に対する逆元が存在しないということになります。つまり、集合 Z4 は体の定義から外れる、体ではないということになります。
2✕1=2 ⇒ 4 で割った余りは 2
2✕2=4 ⇒ 4 で割った余りは 0
2✕3=6 ⇒ 4 で割った余りは 2
0 と 正の整数全体からなる集合をZとすると、集合Zの要素の数は無限になります。問題1-3における集合 Zp は、集合Zに p-1 という上限(この言い方が適切かどうかはわかりません)をつけて有限とした集合です。このとき、p が素数であるときに、mod での加法・乗法に関して Zp は体(可換体)と見なすことができます。
集合Z自体も、逆元をもたないため、体とは言えません。しかし、p-1 という上限をつけて有限とし(これはつまり、要素数を p 個としたということです)、演算を mod p での加法・乗法とすると、問題1-3の解答にあるように、p が素数であるときの集合 Zp の(0を除く)全ての要素が逆元を持ち、体と見なせます。
長くなってきたので、詳しい定義などは書きませんが、整数全体の集合Z(上と同じ記号を使ってすみません)は、体ではなく「環(整数環)」という名前がついています。そして整数環Z(無限の要素数)を有限(m 個)にして、mod m での演算として考えたものを剰余環 Z/mZ といいます。そして、その剰余環Z/mZ で m が素数のとき、有限体として見なすことができるのです。
問題1-3では、剰余環 Z/mZ で m が素数のときには有限体になること、問題1-4では、有限体であれば、素数 p を法とした剰余環 Z/pZ であることを言っているように思えます。
問題1-4については、ひとまずここまでとしたいと思います。
引き続き有限体Fpについて(フェルマーの小定理)
前回具体例として挙げた、有限体F2、F3、F5、F7で、問題と解説にあった内容を確認したいと思います。任意の要素ということなので、まずは全ての要素についてxq=xを確認していきます。
F2={0, 1}
そこで、mod に関する定理とかに何かxq=xのようなものはないかと探したところ、「フェルマーの小定理」が見つかりました(参考:高校数学の美しい物語「フェルマーの小定理の証明と例題」)。
フェルマーの小定理の証明は、参考したサイトに掲載されているので、ここでは省略。
有限体F2、F3、F5、F7について、xq=xを具体的に確認しましたが、これは 7 より大きな素数での有限体Fpにもあてはまります。
問題1-4の「有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはxq=xを満たす」ということは、「有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはフェルマーの小定理を満たす」とも言えそうです。
ということは、有限個の要素からなる体は、有限体Fp、つまり素数 p を法とした剰余環 Z/pZ となる、ということを言っているのかもしれません。
問題1-4
有限個の要素からなる体を有限体という。有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはxq=xを満たすことを証明せよ(実は有限体はすべて可換であることが証明される)。
(解答)
0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる。よってx≠0のときxq-1=1。よってxq=x。x=0もこれを満たす。
F2={0, 1}
02=0F3={0, 1, 2}
12=1
03=0F5={0, 1, 2, 3, 4}
13=1
23=2 (mod 3)
05=0F7{0, 1, 2, 3, 4, 5, 6}
15=1
25=2 (mod 5)
35=3 (mod 5)
45=4 (mod 5)
07=0確かに、有限体F2、F3、F5、F7において、任意の要素xq=xを満たします。mod の性質が絡んでいるようですね。
17=1
27=2 (mod 7)
37=3 (mod 7)
47=4 (mod 7)
57=5 (mod 7)
67=6 (mod 7)
そこで、mod に関する定理とかに何かxq=xのようなものはないかと探したところ、「フェルマーの小定理」が見つかりました(参考:高校数学の美しい物語「フェルマーの小定理の証明と例題」)。
フェルマーの小定理:あ、先の要素ごとの計算、書き方まずかったですかね。mod では「=(イコール、等号)」ではなく「≡」を使います。「≡」は何と読むか知りませんが、"合同(ごうどう)"と入力して変換すると出てきます。等号(=)を使った式を等式といいますが、合同(≡)を使った式を合同式といいます。
p が素数,a が任意の自然数のとき
ap ≡ a mod p
特に p が素数で,a が p と互いに素な自然数のとき
ap−1 ≡ 1 mod p
フェルマーの小定理の証明は、参考したサイトに掲載されているので、ここでは省略。
有限体F2、F3、F5、F7について、xq=xを具体的に確認しましたが、これは 7 より大きな素数での有限体Fpにもあてはまります。
問題1-4の「有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはxq=xを満たす」ということは、「有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはフェルマーの小定理を満たす」とも言えそうです。
ということは、有限個の要素からなる体は、有限体Fp、つまり素数 p を法とした剰余環 Z/pZ となる、ということを言っているのかもしれません。
有限体Fpについて考える
(前回までのあらすじ)
『数学ガール/ガロア理論』を読んで「ガロア理論」に興味を持った僕は、古本屋で『ガロア理論入門』を見つけたので読みはじめた。しかし、文系の僕にとっては「入門」と言えどレベルが高く、読むのに四苦八苦。「数学ガール」シリーズをはじめ、数学読み物やWeb検索で勉強しつつ、なんとか『ガロア理論入門』の内容を理解しようとする。『ガロア理論入門』の各節には練習問題がついていて、現在取り組んでいる問題は、有限体に関する問題だった。
と、ちょっと物語風にこれまでのところをまとめてみました。
現在取り組んでいる問題と解答は次のものです(エミール・アルティン『ガロア理論入門』)。
僕の知っている有限体は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に出てきた、有限体Fpしか知りません。そこで、まずは有限体Fpを例に、問題と解答の理解につなげたいと思います。「数学ガール」でいうところの《例示は理解の試金石》です。
有限体とは、有限個の要素からなる体です。体の定義はここでは省略します。これから考えていく有限体Fpは、素数pを法とした剰余環Z/pZです。
まずは、有限体Fpをいくつか挙げ、それらの演算表をつくります。
有限体F2とF3の演算表
有限体F5の演算表
有限体F7の演算表
『数学ガール/ガロア理論』を読んで「ガロア理論」に興味を持った僕は、古本屋で『ガロア理論入門』を見つけたので読みはじめた。しかし、文系の僕にとっては「入門」と言えどレベルが高く、読むのに四苦八苦。「数学ガール」シリーズをはじめ、数学読み物やWeb検索で勉強しつつ、なんとか『ガロア理論入門』の内容を理解しようとする。『ガロア理論入門』の各節には練習問題がついていて、現在取り組んでいる問題は、有限体に関する問題だった。
と、ちょっと物語風にこれまでのところをまとめてみました。
現在取り組んでいる問題と解答は次のものです(エミール・アルティン『ガロア理論入門』)。
問題1-4
有限個の要素からなる体を有限体という。有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xは xq=xを満たすことを証明せよ(実は有限体はすべて可換であることが証明される)。
(解答)解答を読んでもよくわからないため、具体的に有限体の例を使って、問題と解答に書かれていることを確認していきたいと思います。
0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる。よってx≠0のときxq-1=1。よってxq=x。x=0もこれを満たす。
僕の知っている有限体は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に出てきた、有限体Fpしか知りません。そこで、まずは有限体Fpを例に、問題と解答の理解につなげたいと思います。「数学ガール」でいうところの《例示は理解の試金石》です。
有限体とは、有限個の要素からなる体です。体の定義はここでは省略します。これから考えていく有限体Fpは、素数pを法とした剰余環Z/pZです。
Fp=Z/pZ={0, 1, 2, …, p-1}加法と乗法を mod p(pで割った剰余)で考えます。(環、整数環、剰余環、mod についてもどこかでまとめておきたいですが、ここでは省略します。)
まずは、有限体Fpをいくつか挙げ、それらの演算表をつくります。
F2=Z/2Z={0, 1}素数は無限に存在しますので、有限体Fpの全てを挙げることはできません。ひとまずF7までで。
F3=Z/3Z={0, 1, 2}
F5=Z/5Z={0, 1, 2, 3, 4}
F7=Z/7Z={0, 1, 2, 3, 4, 5, 6}
…
有限体F2とF3の演算表
有限体F5の演算表
有限体F7の演算表
2019/11/05
『ガロア理論入門』問題1-4より
歩みは遅いですが、エミール・アルティン『ガロア理論入門』の問題1-4です。
ただし、解答を見てもわかりません。
「0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる」はわかります。有限体Kはq個の要素をもっていて、そのなかのひとつが0。体であるため、体の定義から、0を除くq-1個の要素は乗法に関して群をなします。位数というのは群の要素の個数と考えていい。だから、「0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる」はわかります。
わからないのは、次の「よってx≠0のときxq-1=1」です。そのあとの「よってxq=x。x=0もこれを満たす」は、xq-1=1が成り立てば、この式の両辺にxを掛けてxq=xが導けるし、xq=xにx=0を代入しても式は成り立ちますので理解できます。
なので、まず理解したいことは、「乗法に関して位数がq-1の群 ⇒ xq-1=1」ということです。群論を勉強すれば、このような定理が見つかるのかもしれないが、あいにくと群論の教科書といったものは手元にありません。Wikipediaとかに載っているのかもしれませんが、専門用語が多すぎて、敬遠してしまいます。
ただし、結城浩さんの『数学ガール/ガロア理論』や『数学ガール/フェルマーの最終定理』に、群や体のことがある程度載っていて、その他数学の読み物ならばちらほら手元にありますので、まずはそれらから考えられるところをまずは自分で考えてみたいと思います。
さて、問題に戻って、問題(と、解答)を理解するために、具体例から考えてみましょう。あいにくと(というか逆にラッキーなことに)有限体の例が『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。問題1-3でも触れた、素数を法とした剰余環を体と見なした有限体Fpです。有限体の種類は他にもあるのかもしれませんが、まずはわかる範囲での具体例から、問題と解答の内容について確認していきたいと思います。
なかなか先に進めませんが、少しずつ進めていきます。
ちなみに『数学ガール/ガロア理論』の「参考文献と読書案内」に、アルティンの『ガロア理論入門』の紹介が載っていたので、記しておきます。
ついでながら、現在私がガロア理論について学んでいる本は、
問題1-4……わからないので解答を見ます。
有限個の要素からなる体を有限体という。有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xは xq=xを満たすことを証明せよ(実は有限体はすべて可換であることが証明される)。
ただし、解答を見てもわかりません。
(問題1-4解答)
0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる。よってx≠0のときxq-1=1。よってxq=x。x=0もこれを満たす。
「0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる」はわかります。有限体Kはq個の要素をもっていて、そのなかのひとつが0。体であるため、体の定義から、0を除くq-1個の要素は乗法に関して群をなします。位数というのは群の要素の個数と考えていい。だから、「0を除くq-1個の要素は乗法に関して位数がq-1の群をつくる」はわかります。
わからないのは、次の「よってx≠0のときxq-1=1」です。そのあとの「よってxq=x。x=0もこれを満たす」は、xq-1=1が成り立てば、この式の両辺にxを掛けてxq=xが導けるし、xq=xにx=0を代入しても式は成り立ちますので理解できます。
なので、まず理解したいことは、「乗法に関して位数がq-1の群 ⇒ xq-1=1」ということです。群論を勉強すれば、このような定理が見つかるのかもしれないが、あいにくと群論の教科書といったものは手元にありません。Wikipediaとかに載っているのかもしれませんが、専門用語が多すぎて、敬遠してしまいます。
ただし、結城浩さんの『数学ガール/ガロア理論』や『数学ガール/フェルマーの最終定理』に、群や体のことがある程度載っていて、その他数学の読み物ならばちらほら手元にありますので、まずはそれらから考えられるところをまずは自分で考えてみたいと思います。
さて、問題に戻って、問題(と、解答)を理解するために、具体例から考えてみましょう。あいにくと(というか逆にラッキーなことに)有限体の例が『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。問題1-3でも触れた、素数を法とした剰余環を体と見なした有限体Fpです。有限体の種類は他にもあるのかもしれませんが、まずはわかる範囲での具体例から、問題と解答の内容について確認していきたいと思います。
なかなか先に進めませんが、少しずつ進めていきます。
ちなみに『数学ガール/ガロア理論』の「参考文献と読書案内」に、アルティンの『ガロア理論入門』の紹介が載っていたので、記しておきます。
エミール・アルティンが線型代数の理論を用いてガロア理論を再整理した数学書です。章ごとの概要や解答付きの練習問題を訳者が付記しているので自習にも向いています。また、巻末の佐武一郎による解説では、ガロア理論の要諦が数ページにまとめられています。
ついでながら、現在私がガロア理論について学んでいる本は、
- 結城浩『数学ガール/ガロア理論』(ソフトバンク クリエイティブ株式会社)
- エミール・アルティン『ガロア理論入門』(ちくま学芸文庫)
- 中村享『ガロアの群論』(講談社ブルーバックス)
引き続き、問題1-3より
引き続き、エミール・アルティン『ガロア理論入門』問題1-3についてです。
問題を解くにあたり、まずは実際に、a + b と ab の演算表を作ってみました(図では a + b の演算表を+、ab の演算表を✕としています)。
たとえば a + b は、a = b = p-1 のとき最大になり、a + b = 2p-2 です。これを p で割ったときの余り、つまり a⊕b は p-2 になります(余りなので 0≦ a⊕b < p)。このようにして、a⊕b、a○b の演算表も作成しました。3○3 などに具体的な数値を入れていますが、p の値によっては p より大きくなる可能性があります。その際はその値から p を引けば余りになります。
まず演算⊕に関して、余りの定義より 0≦ a⊕b < p であるため、閉じていて、単位元 0 が存在します。ここには書きませんが、結合法則、交換法則も満たします。どの行にも単位元である 0 が現れるため、逆元も存在します。よって演算⊕に関してアーベル群であるといえます。
演算○に関しても、閉じていて、単位元 1 が存在し、結合法則を満たします。また、0 以外の要素で逆元も存在します(前回の解答参照)。そして交換法則も満たします。
演算⊕と○に関する分配法則についても満たしており、集合 Zp は可換体であるといえます。
きちんとした証明ではないかもしれませんが、この問題はこれで。
問題文を読んだときには結びついていなかったのですが、このあたりの話が結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っていました。時計巡回の話から mod の話、群、環、体についての話と続きます。そこでの話と、この問題で考えていた集合 Zp や、演算⊕、○についての備考として、
問題1-3 p を素数とし、前回、集合 Zp について、
Zp = {0, 1, 2, …, p-1}とする。a∈Zp、b∈Zp のとき、a⊕b、a○b をそれぞれ a + b、ab を p で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
- 加法(+)・乗法(✕)に関して閉じておらず、逆元も存在しないことから体ではないこと
- 0以外の要素について、pと互いに素であり、pで割った余りは全て異なること
問題を解くにあたり、まずは実際に、a + b と ab の演算表を作ってみました(図では a + b の演算表を+、ab の演算表を✕としています)。
たとえば a + b は、a = b = p-1 のとき最大になり、a + b = 2p-2 です。これを p で割ったときの余り、つまり a⊕b は p-2 になります(余りなので 0≦ a⊕b < p)。このようにして、a⊕b、a○b の演算表も作成しました。3○3 などに具体的な数値を入れていますが、p の値によっては p より大きくなる可能性があります。その際はその値から p を引けば余りになります。
まず演算⊕に関して、余りの定義より 0≦ a⊕b < p であるため、閉じていて、単位元 0 が存在します。ここには書きませんが、結合法則、交換法則も満たします。どの行にも単位元である 0 が現れるため、逆元も存在します。よって演算⊕に関してアーベル群であるといえます。
演算○に関しても、閉じていて、単位元 1 が存在し、結合法則を満たします。また、0 以外の要素で逆元も存在します(前回の解答参照)。そして交換法則も満たします。
演算⊕と○に関する分配法則についても満たしており、集合 Zp は可換体であるといえます。
きちんとした証明ではないかもしれませんが、この問題はこれで。
問題文を読んだときには結びついていなかったのですが、このあたりの話が結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っていました。時計巡回の話から mod の話、群、環、体についての話と続きます。そこでの話と、この問題で考えていた集合 Zp や、演算⊕、○についての備考として、
- Z/pZ 剰余環、そして、p を素数として剰余環 Z/pZ を体と見なすとき有限体 Fp と呼ぶ。
- a⊕b = (a + b) mod p、a○b = ab mod p と定義できる(と思う)。
2019/11/04
一次不定方程式の整数解(問題1-3より)
あらためて、エミール・アルティン『ガロア理論入門』問題1-3についてです。
ひとまず解答にある内容を確認すると、演算○についての逆元があるかどうかをチェックしています。
「よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する」という部分がわからなかったので調べたのですが、a と p が互いに素であれば、ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在するというのは高校範囲の数学で勉強しているようです……。
高校数学の美しい物語「一次不定方程式ax+by=cの整数解」に、「 ax+by=1 が整数解を持つ ⟺ a と b が互いに素」の証明が載っているのですが、ここでやっている証明、いま取り組んでいる問題1-3と絡んでいるようです。特に「a と b が互いに素」ならば「 ax+by=1 が整数解を持つ」という証明の方が。
「a と b が互いに素 ⇒ ax+by=1 が整数解を持つ」の証明
さて、集合 Zp についてですが、この集合は演算+(加算)、演算✕(乗算)に関して体ではありません。Zp は、0 と p-1以下の自然数(正の整数)ですので、演算に関する逆元が存在しません。Zp の Z から整数環の類推も働きます。
似たような話が、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。整数環・剰余環・有限体の話です。
長くなりそうなので、今回はここまで。
問題1-3 p を素数とし、先に、本にある解答を載せておきます。
Zp = {0, 1, 2, …, p-1}とする。a∈Zp、b∈Zp のとき、a⊕b、a○b をそれぞれ a + b、ab を p で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
体の条件のうちの大部分は簡単に示せるので省略する。a ≠ 0 のとき a○b = 1 となる b の存在を示す。a は 1, 2, …, p-1 のどれかであるから、p と互いに素である。よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する。このとき x = pq + r (0≦r<p) のような q, r をとると、大部分が省略されています……。
apq + ar + py = 1 ∴ar = p (- aq - y) + 1よって ar を p で割った余りは 1 であり、r∈Zp であるから a○r = 1。この r を b にとればよい。
ひとまず解答にある内容を確認すると、演算○についての逆元があるかどうかをチェックしています。
「よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する」という部分がわからなかったので調べたのですが、a と p が互いに素であれば、ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在するというのは高校範囲の数学で勉強しているようです……。
高校数学の美しい物語「一次不定方程式ax+by=cの整数解」に、「 ax+by=1 が整数解を持つ ⟺ a と b が互いに素」の証明が載っているのですが、ここでやっている証明、いま取り組んでいる問題1-3と絡んでいるようです。特に「a と b が互いに素」ならば「 ax+by=1 が整数解を持つ」という証明の方が。
「a と b が互いに素 ⇒ ax+by=1 が整数解を持つ」の証明
a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる(※)ので,余りが1となるようなものが存在する。問題1-3での集合 Zp の要素は、0 と p-1 以下の自然数で、pは素数ですので、 Zp の 0 以外の要素と p は互いに素の関係にあります。先の証明の内容「a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる」で、a を 1、b を p とすると、Zp の 0 以外の要素 1, 2, ……, p-1 をpで割った余りは全て異なるということになります(p よりも小さい自然数を p で割るので、そのときの商は 0 で、割られる数そのものがそのまま余りとなります)。
それを ma とおき,b で割った商を n とおくと,
ma = bn + 1つまり,am − bn = 1 となり(m, −n) は整数解になっている。
※の証明(背理法)
ia と ja ( i > j ) を b で割った余りが同じだと仮定すると,(i − j)a は b の倍数となるはずだが,1≦ i − j < b かつ a と b は互いに素なのでこれは矛盾。
さて、集合 Zp についてですが、この集合は演算+(加算)、演算✕(乗算)に関して体ではありません。Zp は、0 と p-1以下の自然数(正の整数)ですので、演算に関する逆元が存在しません。Zp の Z から整数環の類推も働きます。
似たような話が、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。整数環・剰余環・有限体の話です。
長くなりそうなので、今回はここまで。
2019/11/03
体(数学)についての理解を深める問題
エミール・アルティン『ガロア理論入門』には、各節ごとに訳者(寺田文行)による問題がついています。理解を深めるために、その問題を解いていきます。
とは言っても、わからないことが多く、本の解答を見てもわからないところもあるので、解答の仕方に冗長なところがあったり、言葉の使い方を含め誤りがある可能性がありますのでご注意ください(問題自体は本そのままを載せていますが、解答は私の解答なので……)。
第1章第1節の問題は以下です。
問題1-1 (1) 2要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
2要素だけからなる体は{0, 1}なので(演算表ではないですが、)、
(和)0+0=0、0+1=1、1+0=1、1+1=0
(積)0×0=0、0×1=0、1×0=0、1×1=1
(2) 3要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
3要素だけからなる体を{0, 1, a}とすると、
(和)0+0=0、0+1=1、0+a=a、1+0=1、1+1=a、1+a=0、a+0=a、a+1=0、a+a=1
(積)0×0=0、0×1=0、0×a=0、1×0=0、1×1=1、1×a=a、a×0=0、a×1=a、a×a=1
※本の解答は集合を{0, 1, 2}としていた。
問題1-2 (1) a、bを整数とするとき、a+biの全体は体をつくらない。理由を述べよ。
乗法について逆元をもつとは限らないため。s+tiの逆元は1/(s+ti)だが、s、tを整数とするとき、1/(s+ti)はa+bi全体の集合の要素ではないため。
(2) a、bを有理数とするとき、a+biの全体は体をつくる。これを証明せよ。
(略)定義をそれぞれ確かめる。
問題1-3
pを素数とし、
イメージしにくいので、具体例から考えてみる。
p=2のとき、Z2={0, 1}
和と積の演算表は問題1-1(1)で求めている。それに基づき、a⊕b、a○bの演算表を作ってみると、
(⊕の演算表)0⊕0=0、0⊕1=1、1⊕0=1、1⊕1=0
(○の演算表)0○0=0、0○1=0、1○0=0、1○1=1
となり、可換体となっている。
p=3のとき、Z3={0, 1, 2}
これも問題1-1(2)で和と積の演算表を作っており、p=2のときと同様に、a⊕b、a○bの演算表を作ることができる。
これらから見ると、a+bとa⊕b、abとa○bの演算結果は同じになる。これでは証明とは言えない。ちょっと方向性を変える。
問題文から、a⊕b、a○bはそれぞれa+b、abをpで割ったときの余りであるので、それぞれの商をS、Tとすると、
a+b=Sp+(a⊕b)
ab=Tp+(a○b)
と表すことができる。
あ、modを使うのですか、ね?
***
問題1-3について、本の解答を読んでもまだよくわからず……。
出直してきます。
とは言っても、わからないことが多く、本の解答を見てもわからないところもあるので、解答の仕方に冗長なところがあったり、言葉の使い方を含め誤りがある可能性がありますのでご注意ください(問題自体は本そのままを載せていますが、解答は私の解答なので……)。
第1章第1節の問題は以下です。
問題1-1
(1) 2要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
(2) 3要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
問題1-2
(1) a、bを整数とするとき、a+biの全体は体をつくらない。理由を述べよ。
(2) a、bを有理数とするとき、a+biの全体は体をつくる。これを証明せよ(この体をガウスの数体という)。
問題1-3
pを素数とし、
Zp={0, 1, 2, …, p-1}とする。a∈Zp、b∈Zpのとき、a⊕b、a○bをそれぞれa+b、abをpで割ったときの余り、と定める。すると集合Zpは演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
問題1-4
有限個の要素からなる体を有限体という。有限体Kがq個の要素をもてば、Kの任意の要素xはxq=xを満たすことを証明せよ(実は有限体はすべて可換であることが証明される)。
問題1-1 (1) 2要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
2要素だけからなる体は{0, 1}なので(演算表ではないですが、)、
(和)0+0=0、0+1=1、1+0=1、1+1=0
(積)0×0=0、0×1=0、1×0=0、1×1=1
(2) 3要素だけからなる体の和と積の演算表をつくれ。
3要素だけからなる体を{0, 1, a}とすると、
(和)0+0=0、0+1=1、0+a=a、1+0=1、1+1=a、1+a=0、a+0=a、a+1=0、a+a=1
(積)0×0=0、0×1=0、0×a=0、1×0=0、1×1=1、1×a=a、a×0=0、a×1=a、a×a=1
※本の解答は集合を{0, 1, 2}としていた。
問題1-2 (1) a、bを整数とするとき、a+biの全体は体をつくらない。理由を述べよ。
乗法について逆元をもつとは限らないため。s+tiの逆元は1/(s+ti)だが、s、tを整数とするとき、1/(s+ti)はa+bi全体の集合の要素ではないため。
(2) a、bを有理数とするとき、a+biの全体は体をつくる。これを証明せよ。
(略)定義をそれぞれ確かめる。
問題1-3
pを素数とし、
Zp={0, 1, 2, …, p-1}
とする。a∈Zp、b∈Zpのとき、a⊕b、a○bをそれぞれa+b、abをpで割ったときの余り、と定める。すると集合Zpは演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。イメージしにくいので、具体例から考えてみる。
p=2のとき、Z2={0, 1}
和と積の演算表は問題1-1(1)で求めている。それに基づき、a⊕b、a○bの演算表を作ってみると、
(⊕の演算表)0⊕0=0、0⊕1=1、1⊕0=1、1⊕1=0
(○の演算表)0○0=0、0○1=0、1○0=0、1○1=1
となり、可換体となっている。
p=3のとき、Z3={0, 1, 2}
これも問題1-1(2)で和と積の演算表を作っており、p=2のときと同様に、a⊕b、a○bの演算表を作ることができる。
これらから見ると、a+bとa⊕b、abとa○bの演算結果は同じになる。これでは証明とは言えない。ちょっと方向性を変える。
問題文から、a⊕b、a○bはそれぞれa+b、abをpで割ったときの余りであるので、それぞれの商をS、Tとすると、
a+b=Sp+(a⊕b)
ab=Tp+(a○b)
と表すことができる。
あ、modを使うのですか、ね?
***
問題1-3について、本の解答を読んでもまだよくわからず……。
出直してきます。
2019/11/02
有理数体
体の具体例としては、有理数体がイメージしやすいかと思っています。有理数体とは、有理数全体の集合です。有理数全体の集合は、体の定義に当てはまるので有理数体といいます。
体の定義をあらためて確認しておきます。以下の定義を含め引用部分は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』からの引用です。
演算+(加法)・演算×(乗法)に関して閉じている
「閉じている」というのは、次のようなことをいいます。
単位元が存在する
集合の要素のことを元といいます。単位元とは以下のものを指します。
乗法における単位元は1となります。任意の有理数に1を掛けても、1に任意の有理数を掛けても、演算結果はその任意の有理数のまま。乗法については、1という単位元が存在します。
結合法則が成り立つ
結合法則は、演算の順序を変えてもいいという法則です。
交換法則が成り立つ
交換法則は、演算の右と左を入れ換えてもいいという法則。
『数学ガール/フェルマーの最終定理』では、加法・乗法の両方の演算についての交換法則を定義に含めていますが、『ガロア理論入門』では、乗法に関する交換法則は、一般の体の定義には含めていません。『ガロア理論入門』では、乗法における交換法則(換えることができるという意味で、可換性ともいいます)を満たす体のことを可換体と呼んでいます。
逆元が存在する
逆元とは次のことです。
演算+と×に関して分配法則が成り立つ
分配法則は以下のようなものです。
以上のように、有理数全体の集合は、体の定義を満たしているので、有理数体と呼ぶことができます。ちなみに、実数全体の集合や複素数全体の集合も体となります。
しかし、整数全体の集合は体とはなりません。整数全体の集合では、乗法に関する逆元が存在するとは限らないためです。有理数では、乗法に関して、たとえば2の逆元は1/2でした。1/2は有理数ですので有理数の集合の要素です。しかし整数の集合に1/2は存在しません。そのため体の定義からは外れています。整数全体の集合のように、体の定義から「乗法に関して0以外のすべての要素について逆元が存在する」という公理を外した集合には環という名前がついています(整数全体の集合は、整数環と呼ばれます)。
体の定義をあらためて確認しておきます。以下の定義を含め引用部分は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』からの引用です。
体の定義(体の公理)有理数全体の集合は、この体の定義を満たしていることを確認しましょう。
以下の公理を満たす集合を体と呼ぶ。
- 演算+(加法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(0と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- すべての要素について逆元が存在する
- 演算×(乗法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(1と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- 0以外のすべての要素について逆元が存在する
- 演算+と×に関して――
- すべての要素について分配法則が成り立つ
演算+(加法)・演算×(乗法)に関して閉じている
「閉じている」というのは、次のようなことをいいます。
演算の定義(演算に関して閉じている)有理数全体の集合における加法・乗法についていうと、有理数同士で足し算や掛け算をすると、その計算結果(演算の結果)は有理数となり、有理数全体の集合の要素となります。どのような有理数を足し算しても、掛け算しても、やはり有理数です。
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素a, bに関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
単位元が存在する
集合の要素のことを元といいます。単位元とは以下のものを指します。
単位元の定義(単位元eの公理)有理数体では、演算+(加法)における単位元は0になります。任意の有理数に0を足しても、逆に、0に任意の有理数を足しても、演算結果はその任意の有理数のままです。0は有理数の集合の要素ですので、有理数全体の集合の中に、加法における単位元0が存在するといえます。
集合Gの任意の要素aに対して、以下の式を満たす集合Gの要素eを、演算★における単位元と呼ぶ。
a★e=e★a=a
乗法における単位元は1となります。任意の有理数に1を掛けても、1に任意の有理数を掛けても、演算結果はその任意の有理数のまま。乗法については、1という単位元が存在します。
結合法則が成り立つ
結合法則は、演算の順序を変えてもいいという法則です。
結合法則加法や乗法の記号を使って書くと、(a+b)+c=a+(b+c)、(a×b)×c=a×(b×c)です。有理数での加法、乗法では結合法則が満たされています。
(a★b)★c=a★(b★c)
交換法則が成り立つ
交換法則は、演算の右と左を入れ換えてもいいという法則。
交換法則加法ではa+b=b+a、乗法ではa×b=b×aです。足し算や掛け算に慣れていると、足し算、掛け算では当たり前のことのように思いますが、算数の計算では「このようにしましょう」と決めて(定義して)計算しています。有理数での足し算や掛け算でも交換法則を満たしています。
a★b=b★a
『数学ガール/フェルマーの最終定理』では、加法・乗法の両方の演算についての交換法則を定義に含めていますが、『ガロア理論入門』では、乗法に関する交換法則は、一般の体の定義には含めていません。『ガロア理論入門』では、乗法における交換法則(換えることができるという意味で、可換性ともいいます)を満たす体のことを可換体と呼んでいます。
逆元が存在する
逆元とは次のことです。
逆元の定義(逆元の公理)有理数でいえば、たとえば2について、演算+に関する2の逆元は-2です。2+(-2)=(-2)+2=0のように、足して0(加法における単位元)になるもの。演算×に関しては、2の逆元は1/2です。2×(1/2)=(1/2)×2=1で、乗法における単位元1となる逆元が存在します。ただし、乗法に関しては、0以外の要素という条件がついています。0にどのような有理数を掛けても1となることはありません。
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
演算+と×に関して分配法則が成り立つ
分配法則は以下のようなものです。
分配法則2つの演算を結びつけている法則です。数学の授業での式の展開を思い出します。もちろん、有理数の演算+と×に関しても分配法則は成り立っています。
(a+b)×c=(a×c)+(b×c)
以上のように、有理数全体の集合は、体の定義を満たしているので、有理数体と呼ぶことができます。ちなみに、実数全体の集合や複素数全体の集合も体となります。
しかし、整数全体の集合は体とはなりません。整数全体の集合では、乗法に関する逆元が存在するとは限らないためです。有理数では、乗法に関して、たとえば2の逆元は1/2でした。1/2は有理数ですので有理数の集合の要素です。しかし整数の集合に1/2は存在しません。そのため体の定義からは外れています。整数全体の集合のように、体の定義から「乗法に関して0以外のすべての要素について逆元が存在する」という公理を外した集合には環という名前がついています(整数全体の集合は、整数環と呼ばれます)。
2019/11/01
体の定義
エミール・アルティン『ガロア理論入門』(ちくま学芸文庫)の「第1章 線形代数」は、体についての説明、定義からはじまります。
体の定義に関しては、『数学ガール/フェルマーの最終定理』にまとまっていたので、これと、『ガロア理論入門』での体の説明とを確認しながら読み進めていきたいと思います。
群についての定義も『数学ガール/フェルマーの最終定理』から引用しておきます。
『ガロア理論入門』での記述と、『数学ガール/フェルマーの最終定理』での記述はほぼ同じ内容を指しています(定義ですので当然といえば当然です)。1点違っているのは、『ガロア理論入門』の方では、乗法についての可換性(交換法則)を仮定していないことです。乗法について可換であるような体を可換体といい、乗法についての可換性がなりたたない体を斜体としています。
以上が体についての定義ですが、定義だけではイメージしにくいので、体の具体例を見ていきたいと思います。
乗法と加法とよばれる2つの演算が定義されている集合を体という。
――エミール・アルティン『ガロア理論入門』
体の定義に関しては、『数学ガール/フェルマーの最終定理』にまとまっていたので、これと、『ガロア理論入門』での体の説明とを確認しながら読み進めていきたいと思います。
体の定義(体の公理)一方、『ガロア理論入門』では、以下のように書かれています。
以下の公理を満たす集合を体と呼ぶ。
- 演算+(加法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(0と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- すべての要素について逆元が存在する
- 演算×(乗法)に関して――
- 閉じている
- 単位元が存在する(1と呼ぶ)
- すべての要素について結合法則が成り立つ
- すべての要素について交換法則が成り立つ
- 0以外のすべての要素について逆元が存在する
- 演算+と×に関して――
- すべての要素について分配法則が成り立つ
――結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』
正確にいえば、体とは、まず加法についてアーベル群をなし、次に零を除いた残りが乗法について群をなし、しかも2つの群演算が分配法則によって結びつけられている集合である。ここでは体について3つのことが書かれています。「加法についてアーベル群をなす」こと、「零を除いた残りが乗法について群をなす」こと、「2つの群演算が分配法則によって結びつけられている」ことの3つです。
――エミール・アルティン『ガロア理論入門』
群についての定義も『数学ガール/フェルマーの最終定理』から引用しておきます。
群の定義(群の公理)そして、任意の元について交換法則を満たす群がアーベル群です。可換群ともいいます。アーベルは数学者の名前です。
以下の公理を満たす集合Gを群と呼ぶ。
- 演算★について閉じている。
- 任意の元に対して、結合法則が成り立つ。
- 単位元が存在する。
- 任意の元に対して、その元に対する逆元が存在する。
――結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』
『ガロア理論入門』での記述と、『数学ガール/フェルマーの最終定理』での記述はほぼ同じ内容を指しています(定義ですので当然といえば当然です)。1点違っているのは、『ガロア理論入門』の方では、乗法についての可換性(交換法則)を仮定していないことです。乗法について可換であるような体を可換体といい、乗法についての可換性がなりたたない体を斜体としています。
以上が体についての定義ですが、定義だけではイメージしにくいので、体の具体例を見ていきたいと思います。
エミール・アルティン『ガロア理論入門』目次
エミール・アルティン『ガロア理論入門』を読んでいくにあたり、見取り図として目次を掲載しておきます。
各章の各節の最初には、その節の短い概要が書かれており、節の最後には問題が掲載されています。
【目次】
まえがき
第1章 線形代数
訳者あとがき
文庫版訳者あとがき
解説 「ガロア理論」について(佐武一郎)
索引
各章の各節の最初には、その節の短い概要が書かれており、節の最後には問題が掲載されています。
【目次】
まえがき
第1章 線形代数
- 体
- ベクトル空間
- 同次線形連立方程式
- ベクトルの従属性、独立性
- 非同次線形連立方程式
- 行列式
- 拡大体
- 多項式
- 代数的要素
- 分解体
- 多項式の既約因子分解
- 群指標
- 定理13の応用例
- 正規拡大体
- 代数的分離拡大体
- アーベル群とその応用
- 1の累乗根
- ネーター等式
- クンマー体
- 正規底の存在
- 推進定理
- 群論からの追加
- 方程式の累乗根による可解性
- 方程式のガロア群
- コンパスと定規による作図
訳者あとがき
文庫版訳者あとがき
解説 「ガロア理論」について(佐武一郎)
索引
エミール・アルティン『ガロア理論入門』を読む
最近、ガロア理論に興味を持っています。
数学を本格的に学んだことはありませんが、読書は好きで、数学に関する読み物についてもちらほらと読んでいます。その中で、結城浩さんの「数学ガール」シリーズが好きで、5作目にあたる『数学ガール/ガロア理論』がきっかけで、ガロア理論のことを知りました。
それまでにも、ガロアという名前やガロア理論という言葉については、見たこと聞いたことがありました。しかし、ガロア理論の内容についてはほとんど知らず、知っていたことといえば、「5次方程式には解の公式が存在しない」ということにガロア理論が関係しているというくらいです。
すべて理解ができたとは思っていませんが、『数学ガール/ガロア理論』で何となくガロア理論の内容がわかり、現代数学における世界観というか数学観というか、そのような観点に、ガロア理論やその基本となる群や体の概念についての知識が不可欠なのではないかという感覚を持っています。
実生活の何か役に立つかと問われれば何とも言えません。ただ自分にない視点・観点を知りたいというだけです。
先日ブックオフで、エミール・アルティン『ガロア理論入門』を見つけたので買って読んでみました。
一読しただけで、歯が立たないとわかりました。何が書かれているのかわからず、何を書いているのかもわからない。最初の方は少しはわかるのですが……。
『ガロア理論入門』は、まえがきによれば、ノートルダム大学の夏期学校の講義ノートをもとに書かれていて、その講義の目的は「代数学に関しては僅かな予備知識しか持たない学生に対して、ごく短期間にガロア理論の方法と問題点を知らせることにあった」ということです。代数学の僅かな予備知識もなかったか……。
たしかに、数学に関する読み物についていくつか読んだことがあるとはいえ、代数学を体系的に学んだ経験はありません。数学は好きでしたが、高校では文系を選択し、授業では数Ⅱ・数Bの範囲しかやっておらず、数Ⅲ・Cの範囲は知りません。数Ⅱ・B、数Ⅲ・Cの範囲がどんな範囲であるのかすらわかっておりません……。
しかし、もう少し理解したい。
そこで、少しずつとなると思いますが(そして、いつまで続くかわかりませんが)、今後、『ガロア理論入門』に沿って、学んだことをこのブログにアウトプットしていきたいと思います。
数学を本格的に学んだことはありませんが、読書は好きで、数学に関する読み物についてもちらほらと読んでいます。その中で、結城浩さんの「数学ガール」シリーズが好きで、5作目にあたる『数学ガール/ガロア理論』がきっかけで、ガロア理論のことを知りました。
それまでにも、ガロアという名前やガロア理論という言葉については、見たこと聞いたことがありました。しかし、ガロア理論の内容についてはほとんど知らず、知っていたことといえば、「5次方程式には解の公式が存在しない」ということにガロア理論が関係しているというくらいです。
すべて理解ができたとは思っていませんが、『数学ガール/ガロア理論』で何となくガロア理論の内容がわかり、現代数学における世界観というか数学観というか、そのような観点に、ガロア理論やその基本となる群や体の概念についての知識が不可欠なのではないかという感覚を持っています。
実生活の何か役に立つかと問われれば何とも言えません。ただ自分にない視点・観点を知りたいというだけです。
先日ブックオフで、エミール・アルティン『ガロア理論入門』を見つけたので買って読んでみました。
一読しただけで、歯が立たないとわかりました。何が書かれているのかわからず、何を書いているのかもわからない。最初の方は少しはわかるのですが……。
『ガロア理論入門』は、まえがきによれば、ノートルダム大学の夏期学校の講義ノートをもとに書かれていて、その講義の目的は「代数学に関しては僅かな予備知識しか持たない学生に対して、ごく短期間にガロア理論の方法と問題点を知らせることにあった」ということです。代数学の僅かな予備知識もなかったか……。
たしかに、数学に関する読み物についていくつか読んだことがあるとはいえ、代数学を体系的に学んだ経験はありません。数学は好きでしたが、高校では文系を選択し、授業では数Ⅱ・数Bの範囲しかやっておらず、数Ⅲ・Cの範囲は知りません。数Ⅱ・B、数Ⅲ・Cの範囲がどんな範囲であるのかすらわかっておりません……。
しかし、もう少し理解したい。
そこで、少しずつとなると思いますが(そして、いつまで続くかわかりませんが)、今後、『ガロア理論入門』に沿って、学んだことをこのブログにアウトプットしていきたいと思います。
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