V を加群とし、その要素を a, b, … で表わす。また K を体とし、その要素を a, b, … で表わす。このとき K の任意の要素 a と V の任意の要素 a に対し V の要素 aa が定義されていて、次の条件が満たされているならば、V を K 上の左ベクトル空間という。ところで、ベクトル空間は線型空間とも呼ばれる。結城浩『数学ガール/ガロア理論』に、線型空間の公理が載っていたので比べてみよう。
- a(a+b)=aa+ab
- (a+b)a=aa+ba
- a(ba)=(ab)a
- 1a=a
線型空間の公理『ガロア理論入門』の方では左ベクトル空間と右ベクトル空間を区別している点と、記号が異なる点を除けば、同じことを言っている。『数学ガール/ガロア理論』での定義(公理)には VS1 というような番号がふってあるが、これはおそらく vector space の略である(もしかすると、vector と scalar かもしれない)。
アーベル群V と体S が以下の公理を満たすとき、
V を《S 上の線型空間》という。
ただし、v, w は V の任意の元、s, t は S の任意の元とする。
VS1 sv は V の要素になる。(ベクトルのスカラー倍)
VS2 s(v+w)=sv+sw が成り立つ。(スカラー倍の分配法則)
VS3 (s+t)v=sv+tv が成り立つ。(ベクトルの分配法則)
(左辺の+はスカラーの和、右辺の+はベクトルの和)
VS4 (st)v=s(tv) が成り立つ。(スカラー倍の結合法則)
VS5 1v=v が成り立つ。
ベクトル(vector)とスカラー(scalar)という用語が出てきたので、確認しておこう。V が S 上の線型空間のとき、アーベル群V の元のことをベクトルと呼び、体S の元のことをスカラーと呼ぶ(『数学ガール/ガロア理論』の方での記述)。元とは集合の要素のこと。
なお、『ガロア理論入門』の方では「線形(代数)」、『数学ガール/ガロア理論』の方では「線型」と、漢字が違っているが、同じものを指している(古くは線形、最近は線型と書かれていることが多い)。
普段、ベクトル空間を意識することは少ないが、数学ではしらずしらずのうちに使っている。たとえば、座標平面。座標平面を《R 上の線型空間》と見なすことができる(R は実数全体の集合)。座標平面上の点を位置ベクトルと呼ぶこともある。またたとえば、複素数。複素数全体の集合C をベクトルの集合、実数全体の集合R をスカラーの集合として、C は《R 上の線型空間》と見なすことができる。
ベクトル空間(線型空間)の話は、読んだり聞いたりすると納得できるのだが、自ら説明するとなるとまだ自信がないというのが正直なところである。このあと、線形独立や線型従属、そして次元の話が出てくるので、もう少ししっかりと理解しておきたいところである。
ところで、関係ないかもしれないが、ベクトルとスカラーの話を聞くと、僕は単位のことを思い出す。
子供のころ、100円玉が4枚あったら、100(円)✕4(枚)=400(円)となるが、なんで400(枚)とならないのか、物理的に100円玉が4枚だし、感覚的にももちろん400円と思うのだが、400枚としない理屈みたいなものがわからなかった。もし、1円玉を100枚持っている人が4人いたら、100(円 or 枚)✕4(人)=400(円 or 枚)だから「枚」が答えに出ないというわけではない。しかしここでも400(人)とはならない(していない)。メートル(m)とメートル(m)を掛けたら平方メートル(m2)となるのに、(円)と(枚)を掛けて(円枚)という単位にはならない。
僕たちは日常の計算で自然に単位を考えている。それが不思議だった。そして、すごいことだと思う。
100(円)✕4(枚)=400(円)のたとえでいうと、100(円)はベクトル、4(枚)はスカラー、400(円)はベクトルである。ベクトルのスカラー倍はベクトルである。基本的には枚数には自然数となる。ひょっとすると「環上の加群」とはこんなことを考えているのではないか……と、これは妄想である。たぶん、このような単位の計算とベクトル・スカラーの話とはつながっていると思うが、しっかりと説明できるほど結びついてはいない。
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