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2019/11/08

整数環と剰余環

整数全体の集合は割り算(除法、除算)に関して閉じていない。

整数同士の足し算の結果は整数になる。整数同士の引き算も整数、整数同士の掛け算も整数になる。集合の要素同士の演算結果がその集合の中にあることを閉じていると表現する。整数全体の集合は、加法・減法・乗法に関しては閉じているが、除法に関しては閉じていない。
演算の定義(演算に関して閉じている)
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素 a, b に関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
整数全体の集合ではなく、有理数全体の集合とすると、除法に関しても閉じている。

「環」というのは以下のようなものである(厳密には「乗法の単位元が存在する可換環」)。
環の定義(環の公理)
以下の公理を満たす集合をと呼ぶ。
  • 演算+(加法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(0と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • すべての要素について逆元が存在する
  • 演算×(乗法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(1と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
  • 演算+と×に関して――
    • すべての要素について分配法則が成り立つ
整数を抽象化して環という概念をつくったのか、それとも環という概念ができてから整数にも当てはまったのか、歴史的な事情は知らない。ともかく、整数全体の集合は、加法と乗法に関して環になる。整数環という。

定義のなかには減法についての記述がないが、加法と加法に関する逆元があれば減法ができる。除法についても、乗法と乗法に関する逆元があれば除法は可能だか、整数全体の集合のなかには逆元が存在しない。
逆元の定義(逆元の公理)
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
整数ではなく、有理数全体の集合とすると、乗法に関する逆元が存在するので、除法が可能である。有理数全体の集合には「環」ではなく「体」という名前がついている(「体の定義」参照)。「体」と「環」の違いは、乗法に関する逆元が存在するかしないかの違いである。

整数全体の集合はよくZで表される。要素の数は無限である。
Z={…, -2, -1, 0, 1, 2, …}

整数を 2 で割った余りを見ると、割り切れて余りが 0 になるか、1 になるかのどちらかである。2 で割り切れる整数には偶数、1 余る数には奇数という名前がついている。整数を 2 で割った余りを集合として、
Z/2Z={0, 1}
と書く。3 で割った余りならば、余りは 0 か 1 か 2 になるので、
Z/3Z={0, 1, 2}
と書ける。

一般に、ある数 m(整数)で割った余りの集合を、
Z/mZ={0, 1, 2, …, m-1}
と書くことができる。集合Z/mZ には剰余環という名前がついている。加法、乗法を mod m で考えれば環となるからである。整数環の要素数が無限であったのに対して、剰余環は有限の要素数である。

この m が素数であるとき、集合Z/mZ を体と見なすことができる。p を素数とすると、集合Z/pZ は体となり、有限体Fpと呼ばれる。

2019/11/04

一次不定方程式の整数解(問題1-3より)

あらためて、エミール・アルティン『ガロア理論入門』問題1-3についてです。
問題1-3 p を素数とし、
Zp = {0, 1, 2, …, p-1}
とする。aZpbZp のとき、abab をそれぞれ a + babp で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
先に、本にある解答を載せておきます。
体の条件のうちの大部分は簡単に示せるので省略する。a ≠ 0 のとき ab = 1 となる b の存在を示す。a は 1, 2, …, p-1 のどれかであるから、p と互いに素である。よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する。このとき x = pq + r (0≦rp) のような q, r をとると、
apq + ar + py = 1  ∴ar = p (- aq - y) + 1
よって arp で割った余りは 1 であり、rZp であるから ar = 1。この rb にとればよい。
大部分が省略されています……。

ひとまず解答にある内容を確認すると、演算○についての逆元があるかどうかをチェックしています。

「よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する」という部分がわからなかったので調べたのですが、ap が互いに素であれば、ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在するというのは高校範囲の数学で勉強しているようです……。

高校数学の美しい物語「一次不定方程式ax+by=cの整数解」に、「 ax+by=1 が整数解を持つ ⟺ a と b が互いに素」の証明が載っているのですが、ここでやっている証明、いま取り組んでいる問題1-3と絡んでいるようです。特に「a と b が互いに素」ならば「 ax+by=1 が整数解を持つ」という証明の方が。

「a と b が互いに素 ⇒ ax+by=1 が整数解を持つ」の証明
a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる(※)ので,余りが1となるようなものが存在する。
それを ma とおき,b で割った商を n とおくと,
ma = bn + 1
つまり,am − bn = 1 となり(m, −n) は整数解になっている。
※の証明(背理法)
ia と ja ( i > j ) を b で割った余りが同じだと仮定すると,(i − j)a は b の倍数となるはずだが,1≦ i − j < b かつ a と b は互いに素なのでこれは矛盾。
問題1-3での集合 Zp の要素は、0 と p-1 以下の自然数で、pは素数ですので、 Zp の 0 以外の要素と p は互いに素の関係にあります。先の証明の内容「a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる」で、a を 1、b を p とすると、Zp の 0 以外の要素 1, 2, ……, p-1 をpで割った余りは全て異なるということになります(p よりも小さい自然数を p で割るので、そのときの商は 0 で、割られる数そのものがそのまま余りとなります)。

さて、集合 Zp についてですが、この集合は演算+(加算)、演算✕(乗算)に関して体ではありません。Zp は、0 と p-1以下の自然数(正の整数)ですので、演算に関する逆元が存在しません。ZpZ から整数環の類推も働きます。

似たような話が、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。整数環・剰余環・有限体の話です。

長くなりそうなので、今回はここまで。

2019/11/02

有理数体

体の具体例としては、有理数体がイメージしやすいかと思っています。有理数体とは、有理数全体の集合です。有理数全体の集合は、体の定義に当てはまるので有理数体といいます。

体の定義をあらためて確認しておきます。以下の定義を含め引用部分は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』からの引用です。
体の定義(体の公理)
以下の公理を満たす集合をと呼ぶ。
  • 演算+(加法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(0と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • すべての要素について逆元が存在する
  • 演算×(乗法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(1と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • 0以外のすべての要素について逆元が存在する
  • 演算+と×に関して――
    • すべての要素について分配法則が成り立つ
有理数全体の集合は、この体の定義を満たしていることを確認しましょう。

演算+(加法)・演算×(乗法)に関して閉じている
「閉じている」というのは、次のようなことをいいます。
演算の定義(演算に関して閉じている)
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素a, bに関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
有理数全体の集合における加法・乗法についていうと、有理数同士で足し算や掛け算をすると、その計算結果(演算の結果)は有理数となり、有理数全体の集合の要素となります。どのような有理数を足し算しても、掛け算しても、やはり有理数です。

単位元が存在する
集合の要素のことを元といいます。単位元とは以下のものを指します。
単位元の定義(単位元eの公理)
集合Gの任意の要素aに対して、以下の式を満たす集合Gの要素eを、演算★における単位元と呼ぶ。
a★e=e★a=a
有理数体では、演算+(加法)における単位元は0になります。任意の有理数に0を足しても、逆に、0に任意の有理数を足しても、演算結果はその任意の有理数のままです。0は有理数の集合の要素ですので、有理数全体の集合の中に、加法における単位元0が存在するといえます。

乗法における単位元は1となります。任意の有理数に1を掛けても、1に任意の有理数を掛けても、演算結果はその任意の有理数のまま。乗法については、1という単位元が存在します。

結合法則が成り立つ
結合法則は、演算の順序を変えてもいいという法則です。
結合法則
(a★b)★c=a★(b★c)
加法や乗法の記号を使って書くと、(a+b)+c=a+(b+c)、(a×b)×c=a×(b×c)です。有理数での加法、乗法では結合法則が満たされています。

交換法則が成り立つ
交換法則は、演算の右と左を入れ換えてもいいという法則。
交換法則
a★b=b★a
加法ではa+b=b+a、乗法ではa×b=b×aです。足し算や掛け算に慣れていると、足し算、掛け算では当たり前のことのように思いますが、算数の計算では「このようにしましょう」と決めて(定義して)計算しています。有理数での足し算や掛け算でも交換法則を満たしています。

『数学ガール/フェルマーの最終定理』では、加法・乗法の両方の演算についての交換法則を定義に含めていますが、『ガロア理論入門』では、乗法に関する交換法則は、一般の体の定義には含めていません。『ガロア理論入門』では、乗法における交換法則(換えることができるという意味で、可換性ともいいます)を満たす体のことを可換体と呼んでいます。

逆元が存在する
逆元とは次のことです。
逆元の定義(逆元の公理)
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
有理数でいえば、たとえば2について、演算+に関する2の逆元は-2です。2+(-2)=(-2)+2=0のように、足して0(加法における単位元)になるもの。演算×に関しては、2の逆元は1/2です。2×(1/2)=(1/2)×2=1で、乗法における単位元1となる逆元が存在します。ただし、乗法に関しては、0以外の要素という条件がついています。0にどのような有理数を掛けても1となることはありません。

演算+と×に関して分配法則が成り立つ
分配法則は以下のようなものです。
分配法則
(a+b)×c=(a×c)+(b×c)
2つの演算を結びつけている法則です。数学の授業での式の展開を思い出します。もちろん、有理数の演算+と×に関しても分配法則は成り立っています。

以上のように、有理数全体の集合は、体の定義を満たしているので、有理数体と呼ぶことができます。ちなみに、実数全体の集合や複素数全体の集合も体となります。

しかし、整数全体の集合は体とはなりません。整数全体の集合では、乗法に関する逆元が存在するとは限らないためです。有理数では、乗法に関して、たとえば2の逆元は1/2でした。1/2は有理数ですので有理数の集合の要素です。しかし整数の集合に1/2は存在しません。そのため体の定義からは外れています。整数全体の集合のように、体の定義から「乗法に関して0以外のすべての要素について逆元が存在する」という公理を外した集合には環という名前がついています(整数全体の集合は、整数環と呼ばれます)。

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