2019/11/02

有理数体

体の具体例としては、有理数体がイメージしやすいかと思っています。有理数体とは、有理数全体の集合です。有理数全体の集合は、体の定義に当てはまるので有理数体といいます。

体の定義をあらためて確認しておきます。以下の定義を含め引用部分は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』からの引用です。
体の定義(体の公理)
以下の公理を満たす集合をと呼ぶ。
  • 演算+(加法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(0と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • すべての要素について逆元が存在する
  • 演算×(乗法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(1と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • 0以外のすべての要素について逆元が存在する
  • 演算+と×に関して――
    • すべての要素について分配法則が成り立つ
有理数全体の集合は、この体の定義を満たしていることを確認しましょう。

演算+(加法)・演算×(乗法)に関して閉じている
「閉じている」というのは、次のようなことをいいます。
演算の定義(演算に関して閉じている)
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素a, bに関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
有理数全体の集合における加法・乗法についていうと、有理数同士で足し算や掛け算をすると、その計算結果(演算の結果)は有理数となり、有理数全体の集合の要素となります。どのような有理数を足し算しても、掛け算しても、やはり有理数です。

単位元が存在する
集合の要素のことを元といいます。単位元とは以下のものを指します。
単位元の定義(単位元eの公理)
集合Gの任意の要素aに対して、以下の式を満たす集合Gの要素eを、演算★における単位元と呼ぶ。
a★e=e★a=a
有理数体では、演算+(加法)における単位元は0になります。任意の有理数に0を足しても、逆に、0に任意の有理数を足しても、演算結果はその任意の有理数のままです。0は有理数の集合の要素ですので、有理数全体の集合の中に、加法における単位元0が存在するといえます。

乗法における単位元は1となります。任意の有理数に1を掛けても、1に任意の有理数を掛けても、演算結果はその任意の有理数のまま。乗法については、1という単位元が存在します。

結合法則が成り立つ
結合法則は、演算の順序を変えてもいいという法則です。
結合法則
(a★b)★c=a★(b★c)
加法や乗法の記号を使って書くと、(a+b)+c=a+(b+c)、(a×b)×c=a×(b×c)です。有理数での加法、乗法では結合法則が満たされています。

交換法則が成り立つ
交換法則は、演算の右と左を入れ換えてもいいという法則。
交換法則
a★b=b★a
加法ではa+b=b+a、乗法ではa×b=b×aです。足し算や掛け算に慣れていると、足し算、掛け算では当たり前のことのように思いますが、算数の計算では「このようにしましょう」と決めて(定義して)計算しています。有理数での足し算や掛け算でも交換法則を満たしています。

『数学ガール/フェルマーの最終定理』では、加法・乗法の両方の演算についての交換法則を定義に含めていますが、『ガロア理論入門』では、乗法に関する交換法則は、一般の体の定義には含めていません。『ガロア理論入門』では、乗法における交換法則(換えることができるという意味で、可換性ともいいます)を満たす体のことを可換体と呼んでいます。

逆元が存在する
逆元とは次のことです。
逆元の定義(逆元の公理)
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
有理数でいえば、たとえば2について、演算+に関する2の逆元は-2です。2+(-2)=(-2)+2=0のように、足して0(加法における単位元)になるもの。演算×に関しては、2の逆元は1/2です。2×(1/2)=(1/2)×2=1で、乗法における単位元1となる逆元が存在します。ただし、乗法に関しては、0以外の要素という条件がついています。0にどのような有理数を掛けても1となることはありません。

演算+と×に関して分配法則が成り立つ
分配法則は以下のようなものです。
分配法則
(a+b)×c=(a×c)+(b×c)
2つの演算を結びつけている法則です。数学の授業での式の展開を思い出します。もちろん、有理数の演算+と×に関しても分配法則は成り立っています。

以上のように、有理数全体の集合は、体の定義を満たしているので、有理数体と呼ぶことができます。ちなみに、実数全体の集合や複素数全体の集合も体となります。

しかし、整数全体の集合は体とはなりません。整数全体の集合では、乗法に関する逆元が存在するとは限らないためです。有理数では、乗法に関して、たとえば2の逆元は1/2でした。1/2は有理数ですので有理数の集合の要素です。しかし整数の集合に1/2は存在しません。そのため体の定義からは外れています。整数全体の集合のように、体の定義から「乗法に関して0以外のすべての要素について逆元が存在する」という公理を外した集合には環という名前がついています(整数全体の集合は、整数環と呼ばれます)。

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