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2019/11/05

引き続き、問題1-3より

引き続き、エミール・アルティン『ガロア理論入門』問題1-3についてです。
問題1-3 p を素数とし、
Zp = {0, 1, 2, …, p-1}
とする。aZpbZp のとき、abab をそれぞれ a + babp で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
前回、集合 Zp について、
  • 加法(+)・乗法(✕)に関して閉じておらず、逆元も存在しないことから体ではないこと
  • 0以外の要素について、pと互いに素であり、pで割った余りは全て異なること
を書きました。

問題を解くにあたり、まずは実際に、a + bab の演算表を作ってみました(図では a + b の演算表を+、ab の演算表を✕としています)。


たとえば a + b は、a = b = p-1 のとき最大になり、a + b = 2p-2 です。これを p で割ったときの余り、つまり abp-2 になります(余りなので 0≦ abp)。このようにして、abab の演算表も作成しました。3○3 などに具体的な数値を入れていますが、p の値によっては p より大きくなる可能性があります。その際はその値から p を引けば余りになります。


まず演算⊕に関して、余りの定義より 0≦ abp であるため、閉じていて、単位元 0 が存在します。ここには書きませんが、結合法則、交換法則も満たします。どの行にも単位元である 0 が現れるため、逆元も存在します。よって演算⊕に関してアーベル群であるといえます。

演算○に関しても、閉じていて、単位元 1 が存在し、結合法則を満たします。また、0 以外の要素で逆元も存在します(前回の解答参照)。そして交換法則も満たします。

演算⊕と○に関する分配法則についても満たしており、集合 Zp は可換体であるといえます。

きちんとした証明ではないかもしれませんが、この問題はこれで。


問題文を読んだときには結びついていなかったのですが、このあたりの話が結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っていました。時計巡回の話から mod の話、群、環、体についての話と続きます。そこでの話と、この問題で考えていた集合 Zp や、演算⊕、○についての備考として、
  • Z/pZ 剰余環、そして、p を素数として剰余環 Z/pZ を体と見なすとき有限体 Fp と呼ぶ。
  • a⊕b = (a + b) mod p、a○b = ab mod p と定義できる(と思う)。
ということも自分用に記しておきたいと思います。

2019/11/04

一次不定方程式の整数解(問題1-3より)

あらためて、エミール・アルティン『ガロア理論入門』問題1-3についてです。
問題1-3 p を素数とし、
Zp = {0, 1, 2, …, p-1}
とする。aZpbZp のとき、abab をそれぞれ a + babp で割ったときの余り、と定める。すると集合 Zp は演算⊕、○のもとで可換体であることを示せ。
先に、本にある解答を載せておきます。
体の条件のうちの大部分は簡単に示せるので省略する。a ≠ 0 のとき ab = 1 となる b の存在を示す。a は 1, 2, …, p-1 のどれかであるから、p と互いに素である。よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する。このとき x = pq + r (0≦rp) のような q, r をとると、
apq + ar + py = 1  ∴ar = p (- aq - y) + 1
よって arp で割った余りは 1 であり、rZp であるから ar = 1。この rb にとればよい。
大部分が省略されています……。

ひとまず解答にある内容を確認すると、演算○についての逆元があるかどうかをチェックしています。

「よって ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在する」という部分がわからなかったので調べたのですが、ap が互いに素であれば、ax + py = 1 となるような整数 x, y が存在するというのは高校範囲の数学で勉強しているようです……。

高校数学の美しい物語「一次不定方程式ax+by=cの整数解」に、「 ax+by=1 が整数解を持つ ⟺ a と b が互いに素」の証明が載っているのですが、ここでやっている証明、いま取り組んでいる問題1-3と絡んでいるようです。特に「a と b が互いに素」ならば「 ax+by=1 が整数解を持つ」という証明の方が。

「a と b が互いに素 ⇒ ax+by=1 が整数解を持つ」の証明
a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる(※)ので,余りが1となるようなものが存在する。
それを ma とおき,b で割った商を n とおくと,
ma = bn + 1
つまり,am − bn = 1 となり(m, −n) は整数解になっている。
※の証明(背理法)
ia と ja ( i > j ) を b で割った余りが同じだと仮定すると,(i − j)a は b の倍数となるはずだが,1≦ i − j < b かつ a と b は互いに素なのでこれは矛盾。
問題1-3での集合 Zp の要素は、0 と p-1 以下の自然数で、pは素数ですので、 Zp の 0 以外の要素と p は互いに素の関係にあります。先の証明の内容「a と b が互いに素なとき a, 2a, 3a, ⋯, (b−1)a を b で割った余りは全て異なる」で、a を 1、b を p とすると、Zp の 0 以外の要素 1, 2, ……, p-1 をpで割った余りは全て異なるということになります(p よりも小さい自然数を p で割るので、そのときの商は 0 で、割られる数そのものがそのまま余りとなります)。

さて、集合 Zp についてですが、この集合は演算+(加算)、演算✕(乗算)に関して体ではありません。Zp は、0 と p-1以下の自然数(正の整数)ですので、演算に関する逆元が存在しません。ZpZ から整数環の類推も働きます。

似たような話が、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』に載っています。整数環・剰余環・有限体の話です。

長くなりそうなので、今回はここまで。

2019/11/02

有理数体

体の具体例としては、有理数体がイメージしやすいかと思っています。有理数体とは、有理数全体の集合です。有理数全体の集合は、体の定義に当てはまるので有理数体といいます。

体の定義をあらためて確認しておきます。以下の定義を含め引用部分は、結城浩『数学ガール/フェルマーの最終定理』からの引用です。
体の定義(体の公理)
以下の公理を満たす集合をと呼ぶ。
  • 演算+(加法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(0と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • すべての要素について逆元が存在する
  • 演算×(乗法)に関して――
    • 閉じている
    • 単位元が存在する(1と呼ぶ)
    • すべての要素について結合法則が成り立つ
    • すべての要素について交換法則が成り立つ
    • 0以外のすべての要素について逆元が存在する
  • 演算+と×に関して――
    • すべての要素について分配法則が成り立つ
有理数全体の集合は、この体の定義を満たしていることを確認しましょう。

演算+(加法)・演算×(乗法)に関して閉じている
「閉じている」というのは、次のようなことをいいます。
演算の定義(演算に関して閉じている)
集合Gが演算★に関して閉じているとは、集合Gの任意の要素a, bに関して、以下が成り立つこと。
a★b∈G
有理数全体の集合における加法・乗法についていうと、有理数同士で足し算や掛け算をすると、その計算結果(演算の結果)は有理数となり、有理数全体の集合の要素となります。どのような有理数を足し算しても、掛け算しても、やはり有理数です。

単位元が存在する
集合の要素のことを元といいます。単位元とは以下のものを指します。
単位元の定義(単位元eの公理)
集合Gの任意の要素aに対して、以下の式を満たす集合Gの要素eを、演算★における単位元と呼ぶ。
a★e=e★a=a
有理数体では、演算+(加法)における単位元は0になります。任意の有理数に0を足しても、逆に、0に任意の有理数を足しても、演算結果はその任意の有理数のままです。0は有理数の集合の要素ですので、有理数全体の集合の中に、加法における単位元0が存在するといえます。

乗法における単位元は1となります。任意の有理数に1を掛けても、1に任意の有理数を掛けても、演算結果はその任意の有理数のまま。乗法については、1という単位元が存在します。

結合法則が成り立つ
結合法則は、演算の順序を変えてもいいという法則です。
結合法則
(a★b)★c=a★(b★c)
加法や乗法の記号を使って書くと、(a+b)+c=a+(b+c)、(a×b)×c=a×(b×c)です。有理数での加法、乗法では結合法則が満たされています。

交換法則が成り立つ
交換法則は、演算の右と左を入れ換えてもいいという法則。
交換法則
a★b=b★a
加法ではa+b=b+a、乗法ではa×b=b×aです。足し算や掛け算に慣れていると、足し算、掛け算では当たり前のことのように思いますが、算数の計算では「このようにしましょう」と決めて(定義して)計算しています。有理数での足し算や掛け算でも交換法則を満たしています。

『数学ガール/フェルマーの最終定理』では、加法・乗法の両方の演算についての交換法則を定義に含めていますが、『ガロア理論入門』では、乗法に関する交換法則は、一般の体の定義には含めていません。『ガロア理論入門』では、乗法における交換法則(換えることができるという意味で、可換性ともいいます)を満たす体のことを可換体と呼んでいます。

逆元が存在する
逆元とは次のことです。
逆元の定義(逆元の公理)
aを集合Gの要素とし、eを単位元とする。aに対して、以下の式を満たすb∈Gを、演算★に関するaの逆元と呼ぶ。
a★b=b★a=e
有理数でいえば、たとえば2について、演算+に関する2の逆元は-2です。2+(-2)=(-2)+2=0のように、足して0(加法における単位元)になるもの。演算×に関しては、2の逆元は1/2です。2×(1/2)=(1/2)×2=1で、乗法における単位元1となる逆元が存在します。ただし、乗法に関しては、0以外の要素という条件がついています。0にどのような有理数を掛けても1となることはありません。

演算+と×に関して分配法則が成り立つ
分配法則は以下のようなものです。
分配法則
(a+b)×c=(a×c)+(b×c)
2つの演算を結びつけている法則です。数学の授業での式の展開を思い出します。もちろん、有理数の演算+と×に関しても分配法則は成り立っています。

以上のように、有理数全体の集合は、体の定義を満たしているので、有理数体と呼ぶことができます。ちなみに、実数全体の集合や複素数全体の集合も体となります。

しかし、整数全体の集合は体とはなりません。整数全体の集合では、乗法に関する逆元が存在するとは限らないためです。有理数では、乗法に関して、たとえば2の逆元は1/2でした。1/2は有理数ですので有理数の集合の要素です。しかし整数の集合に1/2は存在しません。そのため体の定義からは外れています。整数全体の集合のように、体の定義から「乗法に関して0以外のすべての要素について逆元が存在する」という公理を外した集合には環という名前がついています(整数全体の集合は、整数環と呼ばれます)。

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