もし自分がこのような依頼を受けたならば、誰に、どのような事柄について、意見を求めるだろうか。
この問い(と言ってもいいだろう)を目の前にすると、今の文明についてはおろか、もっとも大事だと思われる事柄や、意見を交換したい相手など、何も見当がつかない自分に気づく。自分ならば「少し考えさせてほしい」と、その場を離れ、そのまま思考停止の状態になりそうである。
アインシュタインは、この依頼を受けた。
国際連盟からの依頼。選んだ相手はフロイト。テーマは「戦争」。
今回のブログのタイトル「ひとはなぜ戦争をするのか」は、アインシュタインとフロイトの往復書簡を収録した本のタイトルである。
アインシュタインがフロイトに手紙を出したのは1932年7月、フロイトからの返信は同年9月。書簡を交わした当時は二人ともドイツにいた。
往復書簡がなされた1932年は、ナチ党が第1党となった年である。翌年にはヒトラーが首相に、さらに1934年には大統領職も得て総統となる。第二次世界大戦のはじまりとされるドイツ軍のポーランド侵攻は1939年9月。往復書簡を交わした後すぐに、アインシュタインはアメリカへ、フロイトはイギリスへ亡命する。二人ともユダヤ人である。
二人とも第一次世界大戦(1914-1918)も経験しているであろう。「今の文明においてもっとも大事だと思われる事柄」が「戦争」であったことは当然かもしれない。
アインシュタインにとって戦争についていちばん意見を交換したい相手がフロイトだった、というのがすごいと思う。
だれもが戦争の問題を解決しようとしているができていない。人間には本能として破壊への衝動の欲求があるのではないか。人間の衝動に精通している専門家に聞きたい。戦争を避けるにはどうしたらいいか。
アインシュタインがフロイトに意見を求めた理由は、簡単に書くと、このようになる。
フロイトはこの問いに対して、精神分析の欲動理論を中心に意見を返す。
人間の攻撃性を取り除くことはできない。なので、人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければよい。戦争を克服する間接的な方法が求められる、と。
かなり省略するが、結論として「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!」とフロイトは言う。
文化の発展が生み出した心のあり方と、将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安――この二つのものが近い将来、戦争をなくす方向に人間を動かしていくと期待できるのではないでしょうか。
アインシュタインとフロイトのやり取りから半世紀以上たった。第二次世界大戦は終わり、大規模な戦争は今のところない。「将来の戦争がもたらすとてつもない惨禍への不安」は、ある。
もう一つの「文化の発展が生み出した心のあり方」はどうだろうか。
そして、いつになったら「戦争の終焉」といえるだろうか。
「少し考えさせてほしい」と、この場を離れ、そのまま思考停止の状態になりそうである。
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