先日、購入した星新一(訳)『竹取物語』を読んだ。
ストーリーは原文に忠実に訳されているが、章の終わりごとに「ひと息」と断りをつけて、星さんの解説・感想が挟まれていること、そして「竹カンムリ」の漢字が出てくるごとに一言加えられているのがおもしろい。たとえば、冒頭はこんな風にはじまる。
むかし、竹取じいさんと呼ばれる人がいた。名はミヤツコ。時には、讃岐の造麻呂と、もっともらしく名乗ったりする。野や山に出かけて、竹を取ってきて、さまざまな品を作る。笠、竿、笊、籠、筆、箱、筒、箸。筍は料理用。そのほか、すだれ、ふるい、かんざし、どれも竹カンムリの字だ。自分でも作り、職人たちに売ることもある。竹については、くわしいのだ。
竹カンムリの漢字を確認したくなってくる。たとえば引用文の「すだれ」「ふるい」「かんざし」を漢字で書くと「簾」「篩」「簪」となり、竹カンムリの漢字である。
巻末には『竹取物語』の原文が載っているのもうれしいところ。
引用文の個所のつづきの原文は「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける」で、筋も竹カンムリの漢字であるが、訳中では触れず、章末の「ひと息」で触れている。物語の雰囲気を壊さないように配慮しているのだろう。
「もと光る竹」ということで、「竹カンムリ」に「光」という漢字はないかと漢和辞典をぱらぱらとめくったが、発見できなかった。
代わり、というわけではないが「簧」という漢字を見つけた。「竹カンムリ」に「黃(黄の旧字体)」で、「コウ」と読む。そして「黄」のもともとの意味は「四方に広がる光」である。「もと光る竹」を「簧」と読めばどんな物語になるか。ちなみに「簧」は「笙などの穴の所にあって、吹いて振動させて音を出すもの。笛の舌。リード」と漢和辞典にあった。竹取の翁が、リードを発明し、大金持ちになったような話を想像する。竹取の翁は家具屋のおやじにしようか、家具屋から楽器店に業態転換したところでツキがなくなるとか、変な想像を膨らませる。
こんな想像をさせてくれて、読んでよかったと思う。
(以下、書誌情報)
購入した文庫本は1987年8月発行のもの。下記Amazonリンクは2008年7月発行の改版。Amazonリンクの下にある書誌情報は1987年版に基づく。
【書名】 竹取物語
【訳者】 星新一
【出版社】 角川書店(角川文庫)
【発行年月】 1987(S62)/8/10
【内容】(カバー見返し)
『竹取物語』の大筋については、ほとんどの日本人が知っている。それほどポピュラーなこの物語が、世界で最も古い「SF」ではないかといわれている。アポロ宇宙船が月に到達して、人類が初めて地球以外の地に立ったのは、ついこの前のことだ。それよりも、何と1000年以上も前の日本に、月からやって来た美しい人がいた――という発想にはあらためて驚かされる。
SF界の第一人者が、わかり易い文章で、忠実に「古典」の現代語訳にいどんだ名訳! 章の終わりごとに書き加えられた訳者の“ちょっと、ひと息”が、この物語の味わいを、いっそう引きたてている。
0 件のコメント:
コメントを投稿