2019/08/07

盗人算より

ある数学読み物で、方程式の紹介をする導入部分において、「盗人算」について書かれていた。吉田光由の『塵劫記』に出ているものだという。そこには以下の問題が記載されていた。
盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「7反ずつ分けると8反余るし、8反ずつ分けると7反足りない。どうしたものかなあ」
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
『塵劫記』にはこれ1問しか出ておらず、答えも次の1行があるだけで、これ以上は書かれていないらしい。
盗賊は8足す7で15人、反物は15人掛ける8反に7反足りないから113反
盗賊の人数がわかれば反物が何反あるのかもわかるので、答えの後半はわかるとして、前半の盗賊の人数を求める部分、「8足す7で15人」というところの説明がほしい。

この数学の読み物では、このあとに方程式を立てて問題を解いている。盗賊の人数をx人として、「7反ずつ分けると8反余る」から反物は7x+8反ある。また「8反ずつ分けると7反足りない」ので、8x-7反とも表せる。7x+8反と8x-7反は同じ数であるので、
7x + 8 = 8x - 7
と方程式を立て、それを解いてx=15、つまり盗賊の人数は15人であることを確認していた。

そして、『塵劫記』には1問しか出ていないので、盗賊の人数や盗品の数が違った場合どうなるか、ということで、読み物では別の問題を作って確認していた。
盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「7反ずつ分けると6反余るし、9反ずつ分けると4反足りない。どうしたものかなあ」
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
同様に方程式を立てて解いてみると、
7x + 6 = 9x - 4
∴x = 5
盗賊の人数は5人で、反物は41反となる。

ここでふと思ったことは、問題の作り方にも注意が必要であるということだ。盗賊が5人であれば、「7反ずつ分けると6反余る」ということは言えないのではないか。6反余るのならば、「8反ずつ分けると1反余る」と言わないといけないのではないか。問題が間違っているとは言い切れないが、「余り」が盗賊の人数より少ないのは違和感を感じる(畳語?)。もっとも盗人の発話自体、実際にありそうな発話とは思えないけれど……。

読み物の方は盗人算を導入として、1次方程式、2次方程式、3次方程式、……という話につなげていて、盗人算がメインではなく、これ以上盗人算に触れることはなかったが、私の方はこの違和感のために、盗人算について少し考えさせられた。

『塵劫記』での盗人算の問題と解答は以下であった。
:盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「7反ずつ分けると8反余るし、8反ずつ分けると7反足りない。どうしたものかなあ」
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
:盗賊は8足す7で15人、反物は15人掛ける8反に7反足りないから113反
この答えにある「盗賊は8足す7で15人」というのはどこから来たのか。「8足す7で15人」として答えは合っているが、たとえば、「8足す7」の「8」は、7反ずつ分けたときの余りの「8」なのか、「8」反ずつ分けると7反足りない方の「8」なのかについては何の言及もない。盗人算とはどのようなものなのかを考えてみたい。

そこで、読み物にあった別の例を、違和感のないような問題に作り直し、『塵劫記』での問題と解答の形式にして比べてみる。
:盗賊団の会話が、橋の下から聞こえる。盗んできた反物を分配しようとしているようだ。「8反ずつ分けると1反余るし、9反ずつ分けると4反足りない。どうしたものかなあ」
さて、盗賊は何人で、反物は何反あるか。
:盗賊は1足す4で5人、反物は5人掛ける9反に4反足りないから41反
どうやら盗賊の人数の求め方は、「○反ずつ分けて余った反数+(○+1)反ずつ分けて足りない反数」であるようだ。

少し一般化してみる。

割り算(除法)、余りについては次のように表現されることが多い。
m = qn + r
mは「割られる数」、nは「割る数」、qは「商」、rは「余り」と呼ばれる。盗人算に合わせられるように、自然数での除法を考える。rnとする。

上記を盗人算に対応させてみると、割られる数mは反物の総数、割る数nは盗賊の人数、商qは盗賊一人あたりの反数、余りrが余った反数となり、盗人算の問題は次のように表現できる。
q反ずつ分けるとr反余るし、q+1反ずつ分けるとa反足りない。盗賊はn人で、反物はm ( = qn + r ) 反とするとき、nを求めよ。
q+1反ずつ分けたときに足りない数をaとした。

もう少しこなれた感じで、盗人算の解答を含めて定理っぽく表現してみると、
m = qn + r で、m = (q + 1)n - a であるとき、n = r + a が成り立つ。
m, n, q, r, a は自然数。rn, an
あるいはmodを使って、
m mod n = r で、m mod n = - a のとき、n = r + a
ともいえる。

証明は略。

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