先日の記事でも触れた石田淳さんの『教える技術』に次の言葉がありました。
「教える」とは、相手から“望ましい行動”を引き出す行為である
何かを教えるという場合、私は「知識」を教えることを真っ先に思い浮かべてしまいますが、「行動を引き出す」という考え方は、なるほど、と思います。
「知識」は知っていたとしても、使えなければ役に立ちません。
つまり、「教える」という行為には、知識を伝えることも含まれますが、その知識を使って「できる」ようになることまで含まれます。「行動を引き出す」までが「教える」という行為の範囲ということです。
ただ、「できる」という言葉もちょっと曲者です。
よく、スキルチェックをする際に、「~することができる(Yes/No)」のような項目がありますが、漠然としすぎて「できているのか、できていないのかわからない」と感じることがあります。
今回は、「(~することが)できる」と「教える」について考察してみたいと思います。
「○○ができますか?」という質問は、「はい(Yes)」か「いいえ(No)」かで答えることができる「クローズド・クエスション(Closed Question)」です。「Yes/No クエスション」とも言われます。(クエスチョン?クエスション?)
「はい(できます)」という場合、できることを証明するには、実際にやってみせることです。
A:「逆上がりができますか?」
B:「はい、できます」
A:「本当?やってみてよ」
B:(実際にやって見せる)
ところが、スキルチェックの項目では、曖昧になってしまっていることが多いと思います。
私はコールセンターに勤めていますので、コールセンターでのスキルチェックとして例を挙げると、
「クレーム対応ができる(Yes/No)」というようなスキルチェック項目があります。
「クレーム対応ができる」と言われても、何ができれば「クレーム対応ができる」と言えるのか?
判断に迷うことがときどきあります。
「クレーム対応」がどんな行為なのか、が曖昧なんですね。
クレーム対応も実際にやって見せることはできます。ただし、やった本人が「できた」と思っていても、見た人は「できていない」と思うかもしれませんし、逆に本人は「できなかった」と思っても、見た人は「できている」と思うかもしれません。
クレームの内容によっても、「できる/できない」は変わってくるでしょう。
今までは、「クレーム対応ができる」というスキルチェック項目を評価する(される)ときには、事前にすり合わせを行ってから評価していました(してもらいました)。
しかし、『教える技術』の中にそれを解消するヒントがありました。
それは「分解する」ということ。
「クレーム対応」とは何か、どんなことか、ということを分解するのです。
例えば、SVとして「クレーム対応ができる」という場合、「オペレーターに代わって顧客対応ができる」とか、「顧客の話を共感しながら聞ける」とか、「顧客の怒りを収めることができる」とか。それでもまだ曖昧ですので、「顧客の話を共感しながら聞ける」ならば、「顧客の話をさえぎらず話すことができる」とか、「相槌を打つことができる」とか、スキルを細かく分解していくのです。
すり合わせでも同じことをやっているのですが、それがすり合わせの場でのみ機能していて、スキルチェック表には反映されていないので、次の機会にはまたすり合わせを行うことになってしまいます。
分解して、それを記録しチェックリストとして活用する。
そうすることで何度も同じことを繰り返しすることがなくなります。
『教える技術』では、
- 「知識」と「技術」に分ける
- 徹底的に分解する
そして、分解した行動のチェックリストにしたがって「教えて」いくのです。
また、別の本ですが、最近読んだ本で似たようなことが書かれていました。
斎藤孝さんの『「意識の量」を増やせ!』には、ゴルフの宮里藍選手の「太極拳スイング」というトレーニング方法が紹介されています。
「太極拳スイング」とは、通常のスイングなら3秒もかからないような短時間の行動を、太極拳のようにわざとスピードを落としてゆっくりと1分間ほどの時間をかけてスイングするという練習方法です。
ゆっくりとした動作でスイングすることで、身体のさまざまな部分に意識が働きます。どの筋肉がどのように動いているのか、重心は今どこにあるのか、など。一瞬のスイングの中では意識していないことも意識に上がり、身体の各位置や動きを丁寧に確認することができます。
これは、「行動を分解する」ことに非常に似ていると感じました。
以前、記事にも少し書きました(「感情・行動に対する理論と実践」参照)が、コンピテンス理論では、学習の段階を4つに分けて説明しています。
- 無意識の無能
- 意識的な無能
- 意識的な有能
- 無意識の有能
「教える」とは、相手を「無意識の無能」の段階から「意識的な無能」の段階へ、そして「意識的な有能」の段階へと上げていくことです。そして「無意識の有能」の段階になったときに、相手は、「教わった」と感じることができるのではないでしょうか。また教わった相手は「(~することが)できる」と自信を持って言えるのではないでしょうか。
ウィルPMの西川です。
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今後とも皆様のお役に立てる書籍を執筆していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。