2011/07/21

有標性、形式と意味、スタンダード

職場で「判断力」についての話をしていたときのこと。

「判断力をつけたい」という話から、「判断力って、どんな力だろう?」「どんな風になったら判断力がついたと言えるかな?」などと話していました。

まぁ、答えはでませんでしたが…。


そのうちに具体的な話になってきて、「この前、こんなことがあったけど、どうするか迷った」という話になりました。

詳細は書くことができませんので、例えて言うと以下のような状況です。ちなみに私が勤めるコールセンターでは、くつ下の販売はしておりません…。

3足で980円のくつ下を、以前に1足350円で買ったお客様から「追加で2足ほしい」という連絡があった。お客様はすでに以前に購入したくつ下の代金350円は支払っていて、特に「3足で980円だから今回の2足は630円で売ってほしい」と言われているわけではない。この状況で、630円で販売するか、それとも700円で販売するか?

お客様の立場からすると、700円で購入しようとしていたものが630円で買えるわけですから「ありがたい」と思います。顧客満足度も向上するでしょう。

一方、会社の立場からすると、売上が減ります。しかし、やましいことは何ひとつしていない状況。

上記の例でもいろいろな条件によって対応は変わってくると思いますが、いわばグレーゾーンの状況の際にどう判断したらよかったか?という話です。

コールセンターでは、大体のところ、「顧客満足」のスローガンを掲げています。顧客満足度を上げるだけならば、630円で販売するという判断もありですし、そもそもなぜ顧客満足度を上げるのかというと、会社の方ではリピート率を増やすなど、売上・利益も伸ばしていくためです。

何を優先させればよいか?ということでわからなくなり、判断に迷った。判断力をつけたい。

このような話です。

で、私が出した回答は、「どちらも間違いじゃない」というもの。ただ、お客様から何も言われなければ「まずは700円で販売する方を先に提案するかな」。

そこで思い出したのが、大学の言語学の授業で習った「有標性」という考え方です。



「有標性(markedness)」という概念(?)・性質は、もともと音韻論の研究の中から生まれた概念です。(Wikipedia「標識」参照)

簡単にいうと、特殊な方に印をつけること。印がついていない方を「無標」、印がついている方を「有標」といいます。「無標」は言葉をかえると「デフォルト」とか「スタンダード」のようなものです。

たとえ話をすると、コールセンターは女性が圧倒的に多い職場です。職場に100人のオペレーターがいたとします。そのオペレーターの男女のそれぞれの人数を数えるとき、男性の人数を数えて残りは女性、と数える方が早いです。このとき男性が「有標」、女性が「無標」。

もちろん、それぞれ数えることもできます。例えば名簿を作って、1人1人に「男性」「女性」と印をつけて、「男性は何人、女性は何人」ということもできます。

しかし、名簿を作って「男性」だけに印をつけて人数を数える方が効率的です。


言葉のつくりにも「有標」「無標」の概念が役立ちます。

「肯定形」と「否定形」でいうと、「肯定形」が「無標」で、「否定形」が「有標」。なぜなら「食べる」という肯定形に対して、「食べない」という否定形では「ない」という印がついています。(「る」が肯定形の印ではないか、という反論はしないでください…)

「リンゴ」と「青リンゴ」ならば、「リンゴ」が「無標」で、「青リンゴ」が「有標」。「赤リンゴ」とはあまり使いません。「リンゴ」がデフォルトで、ちょっと違うものに印をつけて「青リンゴ」といいます。

一般的な方は「無標」で、ちょっと特殊な方・特別な方に印をつけて「有標」とする傾向があります。


冒頭の話に戻って、「630円で販売」と「700円で販売」のどちらを優先するか、を考えた場合、実際にそうなった場合の処理方法は、700円で販売するとしたら通常の処理ですが、630円で販売するとなると、以前のくつ下1足の売上をいったん取り消して、3足セットでの価格として販売し、すでにいただいている代金を3足セットでの価格に充当して残りを請求という特殊な処理となりました。700円での販売が「無標」で、630円での販売が「有標」です。なので、他に何も条件がなければ、無標の方が一般的ではないか。

このような話をしました。

もちろん、700円での販売価格を提示した後に、「昨日1足買ったのでセットで購入できないの?」など言われる場合がありますので、その際に対応すればいいのではないか、ということです。

スタンダードな対応はどのような対応か?と問われた場合に、形式から考えるのもありかな、と思った次第です。

ブログ アーカイブ