常にも、兵法の時にも、少しもかはらずして、心を広く直にして、きつくひつぱらず、少しもたるまず、心のかたよらぬやうに、心をまん中におきて、心を静かにゆるがせて、其ゆるぎのせつなも、ゆるぎやまぬやうに、能々吟味すべし。静かなる時も心は静かならず、何とはやき時も心は少しもはやからず、心は躰につれず、躰は心につれず、心に用心して、身には用心をせず、心のたらぬ事なくして、心を少しもあまらせず、うへの心はよわくとも、そこの心をつよく、心を人に見わけられざるやうにして、小身なるものは心に大きなる事を残らずしり、大身なるものは心にちひさき事を能くしりて、大身も小身も、心を直にして、我身のひいきをせざるやうに心をもつ事肝要也。
水源豊かな湖のイメージです。
広く、静かで、
溢れることなく、枯渇することもなく、
波風立たず、ゆるやかな、
そして、どっしりとした湖。
「水の巻」は、水を手本として、心を水にすることを目指し書かれた巻。
水は器によって形を変え、一滴ともなれば、蒼海ともなる。碧潭の色もある。
心も、人という器、意識という器、言葉という器、自分という器によって、形を変え、色を変え、音を変え。
「心を直にして、我身のひいきをせざるやうに心をもつ事」というのは、シェイクスピアの『ハムレット』で、ポローニアスが息子レアティーズを送るときの言葉、
何より肝心なのは、己に忠実であること。この言葉に通じるように思います。
そうすれば、夜が昼につづくように
誰に対しても忠実にならざるをえない。
(松岡和子 訳)
0 件のコメント:
コメントを投稿