2020/05/02

サロメの漢字(2)

(前回はこちら:サロメの漢字(1)

「サロメ」を漢字で「撒羅米」と書くと知り、私が思っている「サロメ」のイメージとは少し違うなと思い、どのような経緯で「撒羅米」という漢字を当てたのかを調べたことを書いたのが前回の内容である。

今回は、「撒羅米」からのイメージ、そして、私が当て字をするならどのような漢字にするのか、ということについて書いてみたい。これは、私の思う「サロメ」とはどのようなイメージであるのかということになり、私の思う「サロメ」と言えばオスカー・ワイルドの『サロメ』であるので、『サロメ』を読んだ私の感想ともなるかもしれない。とはいっても、思いついたままに書いていくので、たぶんうだうだした文章になるだろう。


さて、前回書いたことだが、「サロメ」を「撒羅米」と書くのは中国語の聖書でのサロメの表記から採ったもののようである。聖書に名前が出てくるサロメは、ワイルドの『サロメ』の主人公とは別人であるので、中国語では「サロメ」という名前ならばどれも「撒羅米」と書くということを知った。なので、ヘロデ王の前で踊りを踊って、ヨカナーンの首を欲したサロメをイメージしての漢字の当て字ではなく、中国語の発音と表記の関係で「サロメ」を「撒羅米」と書くようだ。

そんなことを知る前に私が「撒羅米」の漢字を見たときに思ったことは、サロメのメはなんで「米」なのだろうということだった。

手元の漢和辞典から「撒」「羅」「米」の主な意味を挙げると、それぞれ以下の意味があった。
【撒】
①まく、まき散らす。
②(俗語)「撒手」とは、手を振りちぎること。また、見切りをつけてほったらかすこと。

【羅】
①あみ。目のつらなるあみ。
②鳥をあみで捕らえる。
③つらねる。つらなる。
④うすもの。目のすいたうすい絹織物。うすぎぬ。

【米】
①穀物の小さなつぶ。コメ・アワ・キビなどにいい、また、菱や、ハスの実などにもいう。
②こめ。よね。いね。イネの実のもみがらを取り去った粒。
③小さいつぶ状のもの。
(他、メートルやアメリカなどの意味も記載されていた)
ワイルドの『サロメ』においてサロメがヘロデ王の前で踊ったのは、「七つのヴェールの踊り」ということは書かれている。どのような踊りであるのかは書かれていないが、ヴェールを脱ぎながらの踊りであると言われている。「羅」には「うすぎぬ」という意味があり、「撒」は「撒き散らす」ことであるので、ヴェールをとって投げ捨てるような情景を思い描くこともできなくはないが、「米」がよくわからなかった。今となっては意味はなさそうであることがわかったが、「撒羅米」の漢字から、アメノウズメやウケモチノカミを思い描いた。ワイルドの『サロメ』では、最後にサロメは殺される。殺されたときにウケモチノカミが穀物を生み出したように、サロメが何か生み出したのではないかと想像した。サロメが殺されるのは、ワイルドの創作である。だから、「撒羅米」という当て字にした理由を知ることで、ワイルドが描いていたサロメ像、ワイルドが『サロメ』を書いた意図のようなものにつながるのではないかと思ったのだ。

「七つのヴェールの踊り」は、シュメール神話の「イナンナの冥界下り」と結び付けられて考えられていることもある。シュメール神話はヘレニズムと関係している。ヘレニズムとヘブライズムが交錯した時代、場所が、まさしく『サロメ』の舞台となっている。ヨカナーンにヘブライズムを、サロメにヘレニズムを代表させて『サロメ』が書かれているという読みも可能だ。ヨカナーンは首を切られ、サロメは殺される。生きているのはヘロデ王であり、サロメの母のヘレディアである。ニーチェが「神は死んだ」ということを言ったようだが、ニーチェはワイルドと同時代の人である。ヘブライズムの一神教の神も、ヘレニズムの多神教の神も死んでしまった悲劇をワイルドは『サロメ』として書いたのかもしれない。検証などをしたわけではないので、ただの印象ということになるが、私にはサロメがイエスと重なっているところがあるように思える。イエスが罪を背負って死んだように、サロメも罪を背負って死んだ。イエスによって救われる人々がいるのと同じように、サロメによって救われる人々もいるのではないだろうか。ワイルドは救済の物語を書いたのではないか、とも。

だいぶ話が逸れてしまった。

話をもとに戻して、もし私が「サロメ」に当て字をするなら、どんな漢字を当てるかについて考えてみたい。といってもこれがピッタリというものがパッと思い浮かぶわけはなく、漢和辞典の力を借りる。

「サ」は「紗」が良さげな漢字である。「紗」は、「羅」と同じように、ヴェールにつながる。「縒」も捨てがたい。「彩りの鮮やかなさま」であるとか、「いりまじる」というという意味があり、色とりどりのヴェールを身に着けている様子や、さまざまな人たちのいろいろなサロメ像があることにつながる。ちなみにカタカナの「サ」は、「散」の左上部分から作られているようだ(Wikipedia調べ)。

「ロ」はひとまず「侶」を選ぶ。ヴェールつながりで「絽」もアリかも。熱を感じさせる「炉」もおもしろい。『サロメ』のなかで「バビロンの娘」とヨカナーンに揶揄されているところがあるので、バベルの塔をイメージして「楼」とするのはひねりが加わっているような気がする。

「メ」は最初に思いついた「女」がいいだろう。若さを感じさせる「芽」もアリ。

紗侶女、紗絽芽、……。

日本での名前に見えるような漢字はないかなど、漢字の意味以外のところも考える。新しく名前をつけている、命名しているような気持ちになる。ちなみに、サロメは、ヘブライ語で「平和」を意味する言葉(シャローム)からつけられた名前らしい(Wikipedia調べ)。

初めに言葉ありき。

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