2019/04/22

漱石の言葉の流れに草枕

夏目漱石の小説『草枕』が好きである。芸術論でもあり文明論でもあり、そしてそれらを小説として具現化している作品だと思う。『草枕』の冒頭部分は有名である。
山路を登りながら、かう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
――夏目漱石『草枕』
人の世はどこでも人が作った世である。人のいるところはどこでも住みにくい。だからといって「人でなしの国」はなお住みにくい。住みにくいところをどれだけ住みやすくするか。そのために「詩が生れて、画が出来る」。語り手で画家である「余」を通して、詩や画に対する考え方が表されていく。見聞きしたこと感じたことが言葉として表現されていく。俳句や漢詩を交えながら。

『草枕』を読むと自分でも何か作ってみたくなる。詩を作ってみたくなる。画を描いてみたくなる。一番やりやすく思えるのが、五七五の形式で表現する俳句・川柳の類である。上手下手は別として。

そこで作ってみたもののひとつをタイトルに挙げている。というよりも、この句を作ったことでこの文章を書きはじめた。『草枕』の感想を俳句形式で作ろうとして、感想ではない句ができて、その句をタイトルとしてブログを書きはじめたという流れである。十七音に凝縮することができず溢れてしまったともいえる。

漱石というペンネームは、「漱石枕流」という故事成語が由来である。「石に枕し、流れに漱(くちすす)ぐ」というべきところを誤って「石に漱ぎ、流れに枕す」と言ってしまった人がいた。しかしその人は訂正せず「石で漱ぐのは歯を磨くため、流れを枕にするのは耳を洗うため」と言い張ったため、失敗を認めず屁理屈を言うことを「漱石枕流」というようになった。その四字熟語から漱石という雅号としたという。

「草枕」にも「枕」がある。「草枕」は「旅」の枕詞である。「草に枕す」ともとれる。草には葉がある。言葉は言の葉である。

石に漱ぎ、言葉に枕す。

行雲流水の漱石の言葉を枕として『草枕』を読んでいきたい。

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