2019/01/24

『薔薇の名前』が残したもの

ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を初めて読んだのは大学生のときである。

高校まではそれほど本を読んでいなかった。教科書だけで十分である。しかし、大学に入り、本を読まなければと思い読みはじめた。

入学した学部は文学部である。文学を学びたかったからではなく、英語を学びたかった。外国語学部を目指してもよかったのかもしれないが、英語の成績は他の教科に比べあまりよくなかったので外国語学部は合格できないだろうと思い文学部を選んだ。無事入学試験に合格し、文学部に入るからには文学についても知っておいたほうがいいだろうと思い、文学作品と呼ばれるものを少しずつ読みはじめた。

しかし、よくわからない。

話としておもしろいものはいくつかあった。たとえばシェイクスピアの『ハムレット』などはストーリーとしてもおもしろい。だが、文学的なことはほとんどわからなかった。

文学作品のなかで特に小説は退屈で、ストーリーが遅々として進まず、読むのに時間がかかった。解説書や概要書のほうがおもしろく読めた。まずは読書に慣れることが大切だと思い、読書をやめることはしなかったが、しだいに、読む小説のジャンルは文学作品から大衆小説、特に推理小説へと変わっていった。

そんなときに出会ったのが、エーコの『薔薇の名前』である。

そしてまた、別のルートからウンベルト・エーコのことを知った。

「記号論」からである。

文学部での専攻は英語学であった。学ぶうちに興味の範囲はひろがっていき、英語学から言語学へと移っていった。そして、言語学の父といわれるソシュールのことを知った。

ソシュールの『一般言語学講義』のなかで、記号論(記号学)についての言及があった。

現在は『一般言語学講義』が手元にないため文言を参照することができないのだが、その本のなかでは「記号の学」という表記だったように記憶している。言語というのは記号のひとつであり、言語学を包括するものとして記号学があるのではないかという内容だったと記憶している。「記号学(記号論)」が興味の対象になった。

そして本屋でウンベルト・エーコの『記号論』と出会った。

知った順序として、『薔薇の名前』が先だったのか、『記号論』が先だったのかは覚えていない。ほぼ同時期だったように思う。著者の名前が似ていたので同姓同名の著者かと疑った記憶がある。『記号論』の著者名の表記はU・エーコだった。著者略歴を見ると同一人物だった。

『薔薇の名前』はおもしろかった。

当時のわたしは未熟な読み手であり、おもしろいかおもしろくないかくらいの判断しかできなかった。未熟なことはいまでも変わりはしないが、なぜおもしろいと思ったのか、自分はどこをおもしろいと思っているのかなど、以前よりは語ることができるように思う。

先日、ウンベルト・エーコの『ヌメロ・ゼロ』を読んだ。エーコ最後の小説である。それをきっかけに、また『薔薇の名前』を読みはじめた。

これから複数回に分けてウンベルト・エーコの『薔薇の名前』について、自分の経験や体験も踏まえながら、紹介していきたいと思う。





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